30歳はゴールではなく、オトナとしての「スタート地点」。オンナの赤裸々連載エッセイが単行本化!!

恋愛・結婚

公開日:2016/11/28

『ここからは、オトナのはなし』(LiLy/宝島社)

「20代を持て余している」と、なんとなくパッとしない日々を過ごしていた時、『ここからは、オトナのはなし』(LiLy/宝島社)という本に出会った。著者のLiLyさんは20代から恋愛エッセイをバリバリと書いていた方で、そちらの方のエッセイを読んだことはあったが、日本史オタクで「生きてる男性に興味ないよね」とか同級生(男)に言われるようなお堅い20代前半を過ごしていた私に、イケイケギャルだった著者のエッセイはあまり共感を持てず、すぐに本を閉じてしまった覚えがある。

 なのに、本書は違った。ものすっごく、「よくぞ言ってくれた感」があった。自分の心の中で限りなくグレーで、白黒はっきりつけられていなかったことを文章にしてくれたような、そんな爽快感があったのだ。

 本書は恋愛エッセイの王様的存在で、数々の女性の共感を得ていたLiLyさんが30代となり、結婚、出産、育児、離婚を経て、タイトル通り「オトナ」についてのあれこれを、自分や友人たちの実体験をもとに綴った女性の赤裸々本音エッセイである。

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 一番ハッとしたのは、この言葉。

「30歳」をいろんなことの「ゴール」として勝手に設定して遂にたどりついたここは、オトナとしての、ほんとうの意味での「スタート地点」だった。

 たしかに「30歳までに結婚しよう」、既婚者なら「30歳までに子どもを産もう」、バリキャリなら「30歳までに昇格しよう」……20代女子は、なんとなく30歳をゴール地点のように考えてはいないだろうか。しかし当然のことながら、30歳からの人生の方が断然長い。

 本書はその「気づき」からエッセイが始まる。

 LiLyさんは言う。20代で「青春」が終わり、30代から「旬」が始まる。「『春』が終わり、『青』さが抜けた『旬』到来」だと。本書の中では「旬をどう謳歌するか問題」も語られている。こちらもまた、漠然と将来に希望を抱いている20代のキラキラ時期をこえ、ゴールだと思っていた30歳を迎え、仕事に恋愛に、自身、友人の環境も変化し、地に足を着いて考え始めるアラサー女子たちには胸に刺さるような内容ばかりだった。

 個人的に面白かったのは「アラフォー婚活オトコ」に対する考察。「男と女のタイミングはよくズレる」のは、20代で結婚をしたい彼女と、(同じ年で)まだ独身でいたい彼との「結婚時差」でもお馴染みの「男女問題」だが、30代になると、この現象が逆転するという。

 あくまでLiLyさんの周囲の話ではあるが、「東京港区、渋谷区あたりに住居をかまえる30代後半の独身男たちが、ここにきて結婚願望をメラメラ燃やしている!」のだそう。30代前半までは仕事や遊びに専念し「いつか結婚したい」と考えていた男性が、40歳手前にきて、いよいよその「いつか」を迎えているのだとか。

 実際にLiLyさんが出会った男性は二人。どちらも容姿も経済力も申し分ないエリートサラリーマン。女性が放っておかないタイプの二人が話していたことは、「子どもの教育について」。男の子だったら中高一貫の男子校(エリート進学校)、女の子だったら小学校からのエスカレーター式もいい……などなど。

 そして「結婚相手は、有能なヒトがいいですね」とのこと。

 LiLyさんはこの二人の会話を聞き、「30代後半の男の結婚トークは、20代後半の女の婚活観と酷似していた」と綴る。「自分が手に入れたい将来のビジョンが明確すぎて、『肝心の結婚相手』が、そこからポカンと抜け落ちているところ!」。

 もちろん個人差はあるが、女性が最も結婚欲に駆られるのは20代後半だろう。その時、同年代の男性に結婚の意識は乏しく、女性が30代後半になって「もう結婚なんていいかも」と半ば思い始めている頃、男性はまるで30代直前の女性のように結婚の理想像を描き始めるのだ。悲しいほどに、男女のタイミングはズレるもの、なのかもしれない(溜息)。

 LiLyさんのエッセイにはネガティブな湿っぽさがない。だからといって嘘くさく感じる無理なポジティブを押し付けることもなく、ただ、現実をしっかりと分析して、受け止め、人の弱さもダメなところも取り繕うことなく指摘している。

 そして「で、人生を謳歌するためにはどうする?」と、できる範囲の方法を考えてくれる。30代、「ここがゴール地点だと思っていたら、まだ先があった!!」と困惑している女性に、「共感」と「癒し」と「刺激」を与える一冊だ。

文=雨野裾