恩田陸が描く「夢が可視化された世界」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

今朝見た夢を思い出せますか?――
恩田陸さん2年ぶりの新刊となる『夢違』(角川書店)には、夢を映像データとして記録するという先端技術が登場する。「夢札」と呼ばれる記録ディスクに保存しておけば、何年前の夢であろうと見返すことが可能になる、「夢が可視化された社会」という特異な設定だ。

「四六時中小説のアイデアを考えているせいか、ものすごく鮮明な夢をよく見るんです。今の夢をもう一回見たいな、と思ってもなかなか思い出せないことが多くて、夢を記録できる機械があればいいと考えたんです」
もちろん夢札は恩田さんが生みだした架空の技術。精神医療の分野で利用され、「夢判断」と呼ばれる専門のカウンセラーが、クライアントの夢札を分析し、適切なアドバイスを与える。

物語の主人公・浩章もそんな夢判断の一人だった。
ある年の暮れ、G県の山沿いの小学校で、突如生徒たちが泣き喚くという事件が発生。しかも生徒たちは事件の数日後から悪夢にうなされ、似たような事件は全国で相次ぐ。

真相を探るべく、生徒たちの夢札をチェックすることになった浩章らは、想像を絶するイメージに遭遇する。
「ひょっとして夢は脳が見せているんじゃなくて、どこか外からやってくるものなんじゃないか。そんな思いがこの作品には反映されています」

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小学校での事件と相前後して、浩章の周囲には死んだはずの結衣子の気配が漂いはじめる。浩章の現実がすこしずつ夢に侵蝕されてゆく一連のシーンは、眩暈がするような強烈なスリルを感じさせる。
「昔から『世界は続いていないんじゃないか』という考えが根強くあるんですよ。結構あちこちで断線していたり、ねじれていたりして、別の世界と繋がっているような気がする。ひょっとしたら夢のほうが現実なのかもしれない。わたしがファンタジーやホラーに惹かれるのも、それが理由なのかもしれません」

夢の世界の不思議な魅力を、ファンタジーやホラー、SFなど恩田さんお得意の手法を用いつつ、壮大なスケールで描ききった『夢違』。恩田さんの新たな代表作といえるだろう。
「ラストシーンは作者としてはハッピーエンドのつもりなんです。でも読む人によってはものすごくホラーな結末と感じるかもしれない。どう受けとめられるか愉しみなところですね」

(ダ・ヴィンチ1月号 今月のブックマークEXより)