堂場瞬一 スポーツの裏方を新作で描く

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

堂場瞬一といえば、警察小説」……そう思い込んでいる読者も多いに違いない。だが、小説すばる新人賞受賞のデビュー作『8年』はメジャー球団に入団する33歳の日本人ピッチャーの話。その後も、ハイペースでスポーツ小説を刊行する堂場さんの最新作が『ヒート』(実業之日本社)だ。

「レース中の山場はつくりにくいし、個人競技だからチーム内の人間模様を描くのも難しい」

自身がそう語る本作は、新設の「東海道マラソン」で、はたして日本人選手が世界最高記録を樹立できるのか!?……という、斬新な設定の作品だ。
「アスリートの心情は本人しかわからないわけですし、そこが読者の知りたいところでもある。スポーツノンフィクションだと取材した事実しか書けませんが、小説ならば作家が自由に表現できる。作家の妄想力をはばたかせ、どうしたら読者をどこまで満足させられる作品にできるかを考え抜かなければなりません。そこが、スポーツ小説を書く醍醐味です」

主人公は、自己最高記録を目指すことだけを貫き通し、人を人とも思わない傲岸不遜な態度で、ひときわ存在感を放つ山城悟。堂場さんが箱根駅伝を題材として描いた作品『チーム』に登場した陸上界の至宝だ。
そして今回、マラソンのペースメーカーという、かつてはタブーとされていた存在にもスポットをあてた。

advertisement

「アフリカ人選手がペースメーカー契約をしている場合が多いのですが、これが日本人、しかも下り坂の選手ならば、その役割をどう受け止めるのか……と妄想力を働かせたんです。そこに人間の本質が描けるのではないかというところから、『ヒート』の構想が生まれました」
ペースメーカーとして用意された甲本剛。そして、かつてランナーだったが、世界最高記録樹立を可能にするコース設定と整備を一任される神奈川県職員、音無太志。

「スポーツの裏方さんを書きたいという強い欲求があるんです。そこに読者が共感する人間ドラマを描けますからね。スポーツの世界には、ノンフィクションではなく、小説で表現したほうが良いと思われる題材が、まだまだたくさんある」
そう、堂場さんはスポーツを描きながら、最高の高みを目指す人間たちの群像劇を描いているのだ。

(ダ・ヴィンチ1月号 今月のブックマークEXより)