第12回『男35歳、そばを打つ』後編 土屋礼央

更新日:2013/8/6

良いお店に行くと、そばがきが美味しい
めん切りが苦手な人様に自動めん切り機ってのがある。
便利だけど、そこを自分でやりたいのだ

『男35歳、そばを打つ』後編

今年は両親に自分で打ったそばを振る舞おう。
2011年はそれで締めたいと思った35歳土屋礼央
とはいえ、土屋家の年末は忙しい。スケジュールを母親に訪ねたところ、
空いているのはクリスマスイブのみとの事。
その日の僕は
日中、F.C.東京の取材で熊谷に行く予定ですが、夜は空いている。

という事で

まさかのクリスマスイブ、そば打ちに決定。

イブにそば打ちとは
サンタさんも想像していなかったでしょう。
キリストにハッピーバースデーつーゆーだ。

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ちなみに母親と電話中、
「そういえば、以前Hey! Hey! Hey!に出た時に
BoAちゃんにもらったそば打ちセットがあったと思うんだけど……」
クリスマススペシャル特番のプレゼント交換みたいな企画で
そば打ちセットを貰った事がある事をふと思い出しました。
それさえ実家に残っていれば、
大きなそば打ちセットを持って行かなくて済むので大変助かるのです。

「あぁ、あれね、あの板はお父さんが絵を描く机として、
使っちゃってるよ」

BoAちゃん、そば打ちセット
有効に使わせていただいております。


BoAちゃん、そば板、大事に使わせてもらってます

振る舞いの日程は12月24日に決まりました。
しかしまだ一度もそばを打っていない僕。
初めてを両親に捧げる訳にはいきません。
早速実践、と自宅で第一回そば打ちを決行。

幸いそば打ちDVDがセットに添付されていたので、繰り返し鑑賞。
そば打ちプランはしっかり脳裏に焼き付きました。
しかし色々とサイトを調べると、
そば打ちなんて、最初は失敗して当然。
最初は誰だって、ボロボロのそばが出来る。
くじけず何度もチャレンジする事!と書いてあります。

まぁ失敗するもんだよ。
高倉健さんだって、新人の時は若気の至りもあったでしょう。
と気軽に準備スタート。
とりあえず
スーパーにそば粉を買いに。

散策、散策。


そば粉全然売ってないんすけど。

打つ前に売ってない。

そば打つ人、絶滅種?
そう思ってしまう程売っていない。
たまごっちぐらい売っていない。

もうこうなったら、
高級食材のドラえもん、渋谷文化村の紀ノ国屋へ。


やっぱ売ってる。
さすが紀ノ国屋えもん。

打ち粉をたっぷり使うそば打ち。
部屋の中が粉だらけになる可能性もあります。
ここはしっかりゴミ袋で防御。


ゴミ袋もこういう使われ方をするとは
思っていなかったでしょう

準備完了。

早速、水回し作業に移る。
DVDでの説明、そしてどのサイトでも
この水回しが一番大切と書いてあります。

ここで、こけると良い事が無いらしい。
終わりよければ……という諺がそば打ちには無いらしい。

チョー丁寧に水を入れる。


水を入れます。この水がお皿に直接触れちゃ駄目らしい。
む、難しい……

熱を嫌うソバ粉なので
なるべく手の平にそば粉がつかない様に混ぜる。

そして練る。
「くくり」という作業らしい。

気泡を外に追いやる為に
中に、中にと練るのがコツとの頃。
その形が菊に見える事から
菊練りと呼ぶ。

うんしょ、うんしょ。


必死に練って、玉にします。300回ほど、練ってくださいと書いてある。
あいあいさー

恐らく
こういう作業は、熟練の技が必要なんでしょう。
見よう見まねで始めた僕にはなかなか大変な作業な筈です。


でも、出来たっ!
ひび割れひとつ無く出来た!


どう? 結構綺麗じゃね?

写真で見た完成系とほぼ一緒です。
もしかしたら、こういうの得意かも知れない。

さて、続いては
めん棒で延し(丸出し)の作業。

うち粉をたっぷり使って、端が、ちぎれない様に
綺麗に丁寧にのばしていく。


打ち粉をたっぷりまいて


その上で、そば玉を平にしていきます

そしてめん棒に生地を巻き、更に薄く最終的に生地を四角くする作業、
四つだしへ……。

これもまた手際の良さが必要で、経験が大事なんだろうなぁ……。


出来た!


のばした!



四つに折ります


結構上手い俺。
JGJS(自画自賛の略)

こりゃ、楽しいぞ。
俺、向いてるかも。

近い将来
「そば打ちの香川」
と呼ばれるかも知れん。
(香川といえばうどんだが……)

そして切る作業へ。
リズム良く、包丁を傾けてこま板をずらして均等に切る。
DVDでみる職人技はそれはそれは美しい。
これは、本当に技術が必要で、これこそ、素人が一番苦労するんだろうな……。


これは無理っ!


そして切る!!



見た目は綺麗なんだけどね



ほら


でもやっぱ太いか……

そうは問屋もそば屋もおろさない。
難し過ぎる……。
太さが全く均等にならない。
まぁ田舎そばってのもあるし……。

ま、茹でてみますか。


茹でましょう

ちゃぽん。

ユラユラユラ……。


ゆらゆらゆら


俺のそば、太っ!

お湯が加わって、更に太くなった。
お湯の中で蛇が泳いでいる様だ!
これは、へぎそばならぬ、へびそばだ。


太っ!ヘビだっ!!キャァーーー!

切る作業が太くまばらなだけでなく、
延しも足りなかった様です。
もっと薄くのすべきでした。
田舎そばといえばと思っていましたが、
「田舎そば」を漢字変換したら、
「田舎」では無く「否か」と変換された。
僕のそばを
パソコンにまで否定されてしまった。

まぁ良い。
へびそばになってしまいましたが、
自分の生み出した作品です。
しっかり仕上げる所まで頑張ろう。

水にさらし、ぬめりを取る。
そして冷水でしめる。

完成。


太っ!いびつっ!


ずん!!失敗!

まぁ良い、試食。


不味っ!!

そばは、なんて食感が大事なんだ。
分かってはいましたが、実際に口にすると、普段のそばが
どれだけ素晴らしいのかが分かります。
僕のそばは
太さがまばら、麺の弾力もまばら。
のどごし最悪。

第一回そば打ち、やはり失敗。

とはいえ、

そば打ち、チョー楽しいんですけど。

失敗していてなんですが
自分の伸びしろを感じます。
練る所までは、すでに結構上出来と判断。
あとはもっと延しの部分をしっかりする事。
手際も結構良かったので、もう少し手間をかければ何とかなる。

あとは切る事だけ。

ここは自分の可能性を信じよう。
クレープを焼いた時も1枚目と1000枚目では雲泥の差でした。
常にアップグレードを意識して単純作業するタイプの僕は
やればやるほど、上達しそうです。
今後の自分のそば切り人生に期待。

という事で、もう次回のそば打ちは両親に振る舞う日に決定。
そう心に決め、他の仕事に勤しむ年末にしました。


実家に行くまでは、色んなそばを食べて研究です

そしてクリスマスイブ。
そば粉だけは、高級品っぽいのを頼んでおいた方が良いな
と通販で美味しそうな粉セットを購入しました。


そば粉も大事という事で特選ってのを買いました。
でも2000円也

日中は見事勝利したF.C.東京に機嫌の良い僕。


クリスマスイブ、日中はF.C.東京の勝利を見届けご機嫌

大渋滞で予定を大幅に越えてしまいましたが20時すぎに実家に到着。

ただいまかえりましたー。

「やっと、来た!」
「ほら天ぷらはもう揚げて待ってたんだから。 早くそば打って! お腹空いたー」

19時には必ず着くと言ってあったので
土屋家は相当、空腹のご様子。

すでにリビングでは、揚げたての豪華天ぷらがズラッ。
さすが食材といえば実家。
たいそう豪華な食材の天ぷらです。
この天ぷらと一緒に僕のそばをたべるのか……。

いきなりダイアナ妃と結婚する感覚です。
釣り合うかどうか不安いっぱい。

しかしもう引き下がれない。
第二回そば打ちスタート!


実家でそば粉セットを並べる。
なにやら押収された粉みたいで、ちょっと笑える

第一回は初心者向きという事で
小麦粉と半々の5:5そばでしたが
ここは勝負。
元々目指していた、二八そばに挑戦。
相当鍛錬しないと、
二八そばはボロボロになってしまうらしいですが、
ここは自分を信じよう。
捏ねる所までは自信がある、大丈夫だ。
水をいれる。


さぁ早速始めましょう。
二八そばは水の分量が違う為、慎重に説明書を見る僕


そば粉と小麦粉を混ぜます。
いやぁ写真撮るのを任せるって楽だね



興味を持ち始める父。やはりツボは似ている


おぉ、ボロボロするぜ。


水を混ぜるとボロボロに……。
これが均等の玉になっている事が重要なのだ

流石二八。
金八先生に教わっているみたいです。
本当に言われた通りになった。

しかし練りの土屋(勝手に名付ける)
ここは丁寧にじっくりやっていこう。


練る!


中に練る!中に練る!


手際良く!手際良く!

すると

「手に力入ってるんじゃないの?」

出た、母親のチャチャ。

何も知らないくせに。

心で叫ぶ息子。


「ここが大切なんでしょ、もっと水入れた方が良いじゃない?」


黙れ素人。

心で、汚い言葉で叫ぶ息子。

僕がもっと経験豊富だったら、
豊かな気持ちで受け入れられるのですが
現在はプレパラートより薄いそば道を恐る恐る渡っている段階。
自分が思った場所以外に寄り道する余裕はありません。
醜い己が垣間見えるが、ここは我慢です。
心を無にして作業を進める自分。


おぉ、意外と上手く言っている気がする。


出来た!俺、巧くね?

これは自慢しても良い筈です。
とはいえ、
「どう、見てみて!」
と言うのも大人のする事では無い。
手際よくやっていれば、家族も何か言ってくるでしょう。
黙って、延しの作業に移る僕。


延ばす!

「見て、お父さん!」

おっ、気づきよったわい。


「見て、お父さん、真央ちゃんよ!」

ちょうどTVでは全日本フィギュア。
家族の視線は全てTVに。
「綺麗ねぇ〜!」

時間がかかっている僕のそば打ちに飽きてきた様です。
浅田真央ちゃんのプロのスケーティングに魅了されている。

気にしない、気にしない。

真央ちゃんは、経験豊富。
僕は、まだ二回目。

めん棒を回転させ、生地を延ばす。
「俺の方が4回転以上廻してるぜ、どうだ真央! 来年は負けないぞ!」

よくわからない対抗意識を持ってしまった僕。

集中継続で延しの作業を実行。


めん棒を巧みに使う!
みんなフィギュアだけじゃなくて、俺も見て!


「ちょっとあんた、はちまきでもしなさい」
息子はいつまでも息子です



いつもより薄く延ばす!



どんどん薄くなる。板からはみ出た!それくらい薄い!


折ります



折ります。坂上二郎さん万歳。

出来た。

結構、薄く延ばせた。
板に乗り切らないくらいに延ばせた。

これは薄いぞ。

準備万端だ。

さぁ、問題の切りに入ろう。


切ります!

「お、切るのか?」

真央ちゃんの演技が終わったのか
父が、僕の切りの作業に目を移してきた。

丁寧に切る自分。


細ぉ~く、均等に……。


良いんじゃない! ただ細過ぎるか?

ニヤニヤと僕を眺める父。
「こりゃ面白そうだ、切ってみたいなぁ」

遂に、参加してきた父。
僕の作業に参加してきたのは
ベビースターを並べた時以来10年ぶりです。
(なんだ礼央化4巻付属CD-ROM参照)

今日は両親に振る舞おうと思ったのですが、
切ってみたいと言うならば、是非だ。

「こっちに右利き用の包丁があるから、やってみる?」

「へぇ、左と右で違うんだぁ」

やはり僕の父。
興味を持つポイントが一緒です。

右利き用で父がそば切りの挑戦。

「おぉ、難しい! おい、お前もやってみろ」
母親も誘う父。
「やってみようかしら、あら難しい! 姉さんもどう?」
隣に住んでいる叔母も参加していた本日
叔母もそば切りに挑戦。
「あぁ、もうそこはこうよ!」
プロデュース好きの母が叔母の切り方に口をだす。
「変わって!」
再び母が切る。
「いや、こうだろう」
再度父参戦。


父親が参加。するとぞろぞろと母、叔母

横で眺めるだけの僕。
いつしか、僕は観覧側に回ってしまいました。


どうすればもっとよく切れるかを相談する3人。
僕が一番外野

しかし人の作業を見ていると、
もっとこうするべきだと考える様になる。
ほとんど切り終わってしまったそば。

「ちょ、ちょっと、最後は僕にもやらせてよ」

最後に自分が切る事に。

トン!トン!トン!

「おぉ!」

周りから歓声があがる。

人の切る所を見て
包丁の重さを使って切るというより
振り下ろす感覚だと気づいた僕。
その感覚でそば切りをやってみると
とってもリズム良くそばを切る事に成功しました。
やはりリズムが良いと
見た目も綺麗に切れるもので、
最初とは全然違い、均等にそばが切れました。


出来た!みんなで切った!


ちなみこれが最後に僕が切ったそば。綺麗じゃね?

「はやく茹でよう! 私お湯わかしておいたから、そば渡して!」
テンションがあがる母。
「お、おう」
そばを渡す僕。
「つゆは私が作るわ!」
手伝いたくてしょうがない叔母がつゆを担当。
「わさびがあった方が良いな」
父が冷蔵庫にかけよる。

する事がなくなった僕。


振る舞ってるんだか、振る舞われてるんだか。


完全に調理側に回った土屋家

まぁ良い。
そば打ちに参加した途端に、家族全員のテンションが上がりました。
これはこれで素敵な家族団らんです。

そば完成。


出来た!美味そう!!!

先ずは僕が頂きます。


いただきます……

さて、お味の方は……。
前回よりは出来は良い筈だが……。

ズズズっ……。


「美味い!」


圧倒的に美味い。

前回の出来を知っているだけに、感動すら覚える。
均等に切られたそばで、食感も良い。
二八そばにした事でちゃんとそばの香りもする。
通販で買ったそば粉も良かったのでしょう。
喉ごしも最高です。

「美味しいか! よし、僕も食べよう」
父が真っ先に箸を持ってやってきました。
「いや、僕は前回の失敗を知っているから美味しいだけかも……」
急に心配になる僕。
初めて食べる人の評価は厳しい筈です。

「いただきます」


「美味い!」


父絶賛。

「どれどれ!」
母も叔母も食べる。


どれどれ?


「美味しい!」


「ってかそば屋より美味しいぞ」

色んな美味しいものを食べてきた父がそんな事を言いました。
相当喜んでいるので、お世辞には聞こえない。
お店よりってのは大げさだと思いますが
やはり打ちたてのそばってのは
美味しいのでしょう。

「自分で打つと今後そば屋に行くのが楽しくなるね」
礼央化的な発言を父がする。
やはり血が繋がっている。
礼央化では無く、土屋化である。


美味しい!みんなで食べる!!

それから、序盤に切った色んな太さのそばを湯がいて食べる。
これはこれで違った味で面白い。
「これは、あぁだ」「それはこうだ」と言いながら
みんなでそばを食べる。
想像以上に盛り上がる家族でのそば打ち。
これは、昔やった
手巻き寿司パーティーのノリです。
そばを食べた後、母が揚げたエビの天ぷらを食べる。
美味い……。
やはり、そばには天ぷらが合うねぇ。
これで日本酒いったら最高だろうな……。
酒を呑まなくなったのに、そんな事を思ってしまうくらいの素晴らしいプラン。

「お正月、もう一度やろう」
父から提案が。

良いねぇ。

「次は捏ねる所からやってみたい」

良いねぇ!

そばは振る舞うのも良いですが、
みんなで楽しくそばを打つ。
これは、これからの土屋家の
新しい家族団らんパターンかも知れません。
そば打ちならぬ、そば家。

次はうどんを打ちたいね。
ビニールにタネを入れて
足で踏んで捏ねる。

踏めば踏む程、コシが出るそうです。
来年の年末はうどんパーティーも良いかも知れません。

みんなでうどんを足で踏んで踏んで
年コシ。

ではでは土屋礼央でした。


美味しい天ぷらとそばと家族。粋ですな