読書メーターで大絶賛! 「次の本屋大賞候補?」「ピクサーにアニメ化してほしい」大注目の翻訳本『アルバート、故郷に帰る 』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『アルバート、故郷に帰る 両親と1匹のワニがぼくに教えてくれた、大切なこと』(ホーマー・ヒッカム:著 金原瑞人+西田佳子:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)

「胸の深いところに沈み込むもののある作品で、読み終えてからずっと思い返して考えている」(スイさん)。「壮大な映画を、DVDじゃなくて映画館で観終えたような、映画館を出てもまだ余韻たっぷりなあの感じ」(kozuさん)。「人生は謎の連続。なんでもわかったような気になってるけど、なんにもわかってない。ロードムービー風の不思議な大人の寓話ですね」(おさむさん、以上「読書メーター」より)…さまざまな熱い感想が寄せられている『アルバート、故郷に帰る 両親と1匹のワニがぼくに教えてくれた、大切なこと』(ホーマー・ヒッカム:著 金原瑞人+西田佳子:訳/ハーパーコリンズ・ジャパン)をご存じだろうか? 

 当編集部でも「次の本屋大賞(翻訳部門)候補?」「ピクサーにアニメ化してほしい」と大注目なのだが、実は翻訳者もあとがきで「21世紀になって、これ以上おもしろい小説は書かれていないのではないか」とベタ誉めするほど。一体、何がそんなにおもしろいのか、実話とフィクションがまじっているという不思議な世界をちょっとご紹介しよう。

 物語は大恐慌から6年後の1935年、ウェストバージニア州の炭坑町・コールウッドに住むホーマーとエルシーの若夫婦がフロリダに向かう旅に出るというもの(ちなみに著者はふたりの息子にあたる人物でベストセラー作家)。お供はアリゲーターのアルバートと謎の雄鶏で、目的はペットとしてかわいがっていたアルバートが飼いきれなくなり、故郷に連れて自然に帰すためだった。このアルバートは、エルシーがかつてフロリダのオーランドに住んでいた頃にいい仲だった男性から結婚祝いに贈られたものだった。実は「夫婦」としていまひとつしっくりいかない2人にとっては、「昔の男」のイメージをちらつかせる微妙な存在。夫婦としてちゃんと歩み出したいと願うホーマーは、勇気を出してアルバートを手放すことを提案し、エルシーもしぶしぶ同意して2人は旅をはじめる。

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 この物語の面白さのメインは、とにかく旅に出てからだ。章タイトルだけでも面白いので一部を紹介すると「エルシー、急進派になる」「ホーマーは野球選手になり、エルシーは看護師になる」「エルシーがビーチを愛するようになり、ホーマーとアルバートは沿岸警備隊に加わる」「ホーマーとエルシーが映画に出て、アルバートはクロコダイルを演じる」…元はしがない炭坑夫だったホーマーと妻のエルシーは、時に労働争議のアジテーター、時に野球選手&看護師と、行きがかり上とはいえ実にさまざまな職を「大真面目」に体験するハメになるのだ。しかも脇役に登場するのはスタインベックやヘミングウェイとハンパない面々。真偽のほどは別として、驚くべき運命のいたずらが当たり前のように進む展開にはぐいぐいひきこまれる(本の中では「宿命」と表現しているが、まさに受け入れるしかないという感覚だ)。なのに、どこかやり取りは素っ頓狂でのんびり。おまけにそんな2人を「ヤーヤーヤー」とニコニコ喜ぶアルバートがかわいいったらありゃしない!

 幼い子供が寝る前に「お話」をおねだりしたりするシーンがドラマなんかに出てくるが(自分もそういう子供だったという人もいるだろう)、この本を読んで一番思い出したのはそんな時に子供が感じる“ワクワク”だ。担当編集者も「小説を読むのが幼い頃からいかに好きだったか、思い出させてくれた一冊」とメッセージを寄せているが、ラストの温もりといい「物語を味わう」醍醐味がつまっているといっていい。時はまさにクリスマスと年末のホリデーシーズン。大切なあの人に、あるいはがんばったあなた自身へ、プレゼントにもぴったりだろう。

文=荒井理恵