実に“骨太”!! 新語・流行語大賞でお馴染み『現代用語の基礎知識』の意外な内容

社会

公開日:2016/12/27

2017年版
2016年版

 多くの日本人にとって、「新語・流行語大賞」選考のベースとなる書籍というイメージが強いに違いない『現代用語の基礎知識』(自由国民社)。毎年発表の時期を迎えると「何故あの言葉が大賞に?」、「どうしてあの言葉は選ばれなかったのか??」など、大賞に選ばれたキーワードに関する論議こそ頻繁に目にするが、ベースとなっている『現代用語の基礎知識』の内容に関する意見や感想を見かけることは、ほとんどないように思える。少なくとも筆者は、新語・流行語大賞の結果を知り、その年の『現代用語の基礎知識』を読もうと考えたことが、恥ずかしながらこれまで一度もなかった。何故なら、大賞発表のニュースを見ただけで、その年の新語や流行語について、わかったつもりになっていたからだ。

創刊号

 昭和23年創刊。69年目を迎えた2017年版には「113のジャンルから現代社会の“いま”を捉える日本でたったひとつの新語・新知識年鑑」という惹句が添えられている。もしも「新語・流行語大賞」だけで、その年の新語・流行語が理解できてしまうのであれば、これだけの長期にわたり『現代用語の基礎知識』を発行する意味がないはずだ(流行語大賞の選定は1984年からだけど)。いったい『現代用語の基礎知識』とは、どのような書籍なのか。あらためて(というか初めて)読破した感想を、ここに記します。

 発行元である自由国民社の商品情報ページによれば、2017年版の『現代用語の基礎知識』は全1368ページ。ここまで「書籍」と書いてしまったが、出版界のルールでは年1回発行の「雑誌(ムック)」という扱いになるようだ。専用の流通経路が利用できるようになるなど、雑誌扱いにするメリットがあるからなのだろうが、実際の読後感も意外なことに、「書籍」というよりは「雑誌」にかなり近いものだった。

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 総勢200名以上の識者が集まり、専門ジャンルの用語選定や解説を担当している新語・流行語のまとめということで、当然ながら基本構成は事典的。しかし一読してまず感じたのは、各項目の解説文からしっかり個々の執筆者の「顔」が見えてくることだった。単なる用語解説にとどまらず、そのキーワードが話題となった背景や今後の展望はもちろん、場合によっては執筆者の見解まで含まれる記述が、随所に見受けられるのだ。各ジャンルの解説ページ冒頭に設けられた、そのジャンルの一年間を総括する一文は特にその傾向が強く、コラムとしても読み応えのあるものになっている。

 毎年、その年を振り返る上で特に重要と判断した事象について、文化人や著名人からの寄稿や対談で構成された特集記事が巻頭に組まれているのも、実に雑誌的な考え方だ。2017年版は「天皇の生前退位を考える」、「揺れ続ける列島を考える」「安倍政権の強靭さを考える」といった特集が巻頭を飾っている。“神ってる”や“ゲス不倫”、“盛り土”など、新語・流行語大賞に選ばれたキーワードだけで本誌をイメージしていた人なら、その「骨太」な内容に腰が砕けてしまうのではないだろうか。

 一方、全113ジャンルということで、「新語・流行語大賞」の枠には収まりきらない、ニッチなジャンルのトレンドがわかるようになっているのも、本誌ならではの魅力である。たとえば「余暇」-「園芸」の項を読むと、庭のシンボルツリーのトレンドが、ここ数年続いていたシマトリネコからジューンベリーやアオダモに替わりつつあること、コスモスの新品種である「カップケーキ」や紫陽花(アジサイ)の新品種「ケイコ」が2016年の注目すべき存在だったことがわかる。園芸ファンの中には映画やアニメ、芸能ファンのように「なぜ『ケイコ』が流行語にノミネートされなかったのか!」と憤慨している人がいるのかもしれない。

『現代用語の基礎知識』をより深く理解するため、2016年版も取り寄せ読み比べてみたが、どうやら毎年細かく改訂を繰り返しているらしいことが発覚。先ほど例に挙げた「園芸」を含む「余暇」が、2016年版では「趣味」という項目名だったほか、「園芸」のジャンルも概要パートを設けず、いきなりキーワード解説になっているなど、かなり異なる構成だったことがわかる。ちなみに2017年版では、トレンドキーワードの紹介は概要パートにとどめ、解説パートは「用土」「水やり」といった基本の園芸用語をメインとして取り上げている。このあたりにも、単なる事典や年鑑とは軸の異なる、柔軟な編集・執筆姿勢を感じることができる。

 その年に登場、もしくは話題となった「知っておくべき」新語や流行キーワードについて詳しく解説することが、『現代用語の基礎知識』の主目的であることは間違いないが、それだけにとどまらない存在だったというのが、読後の感想だ。不偏不党でまんべんなく新語・流行語を集めるのではなく、明確なポリシーをもって編集されている「雑誌」だと感じた。その点を批難されることもあるようだが、最終的には読者の判断だろう。少なくとも現代を理解し、自分で考えるためのヒントを得たい人にとっては、比類なき存在といってもよいのではないだろうか。

文=石井神照