「手土産として経費で落とし、自宅で使う」なぜ、バレた? 本当は怖い「経理部」のすべて

社会

更新日:2017/1/23

『経理部は見ている。(日経プレミアシリーズ)』(楠木新/日本経済新聞出版社)

 経理部のイメージは、一言で言えば「地味」だろう。営業や広報、企画に比べると華がない。四六時中、数字と向き合う縁の下の力持ちポジション。だが最近、『これは経費で落ちません!』(青木祐子/集英社)という、経理部のお堅い女性を主人公にしたライト文芸が話題となっている。さらに石原さとみ主演の「校閲」という裏方仕事を題材にしたドラマも放送されている。昨今は「地味」ブームなのか? いやいや、地味なんてとんでもない。経理部、本当はすごい、怖いかも?

『経理部は見ている。(日経プレミアシリーズ)』(楠木新/日本経済新聞出版社)は、経理部がお金を通して社員の何をどう「見ている」のか、豊富な事例を紹介しながら、組織人とお金の関係について考察している会社員必読の一冊だ。

 社員が使った経費を処理する際、経理部の「目」は、漫然とおかしな点を探しているわけではない。決算作成の社内基準、法人税法やその基本通達、経理部の規定やルールに則ってチェックをしているのである。

advertisement

 大抵の場合は、問題なく処理が終わる。ただし、「問題児」は厳しくマーク、精査されているし、何か月にも及ぶ「不審点」が積み重なり、ついに「不正請求」が暴かれるケースもあるそうだ。

 例えば、今までほとんど接待経費を使わなかった営業社員が、単身赴任になった途端、飲食経費が増えたことがあったそうだ。経理担当者はピンときた。「自分の個人的な飲食を営業経費に振り替えている可能性がある」。こうなると、その社員は「厳重監視」の扱いになる。

 また、ある調査会社に、奇妙な精算をする女性社員がいたという。喫茶店での調査ヒアリングの際、飲み物のほかにケーキを1つ注文している。ヒアリング相手が要望したからということだったが、経理担当者はそれまで彼女が提出した書類を見直しているうちに、どうも怪しいと感じた。「一人で飲食しているのではないか?」と。

 そこで経理担当者は休日、その喫茶店を訪れたという。すると、飲み物は一律400円で、ケーキセットは850円。彼女から提出されていた喫茶店の手書き領収書の2枚を見たところ、金額は850円だった。もしも二人で飲み物を注文したなら、800円になるはず。どちらか一方がケーキを注文しても、850円になることはあり得ない。ここに、彼女の不正が発覚したのだ(その後、彼女の提出した書類にはあえて何も言わず、手書き領収書は不可、頼めるのはコーヒーか紅茶のみ、などの新ルールを適用したという)。

 不審に思われると経理担当者が喫茶店にまで訪れてチェックをするなんて、まるで小説のようである。この事例は稀有なパターンなのだろうが、経理担当者に「あれ?」と思われると、とにかく怖い、ということだ。

 また、こんな事例もある。

「手土産で落とし、自宅で使う」という明らかな不正が露見した理由はレシート。取引先に手土産として持っていたはずの商品レシートに「送料」が品代とは別に印字されていたのだ。このため、申請した社員の自宅に手土産が配送されていたことを突き止めた経理担当者がいたとか。

 ここまでは完全な不正ケースだが、『これは経費で落ちません!』の主人公・森若さんも言っている通り、「だいたいの社員は、入社するとすこしずつずるくなる」そうだ。出張のホテル代を、安いカプセルホテルに泊まって数千円浮かせたり、定期券内での打ち合わせなのに交通費を請求したりと、「これくらいは大丈夫だろう」「ちょっと得したい」という気持ちが働き、それがエスカレートして大きな不正につながる場合がある。人は監視の目がないと、「お金に弱いもの」。だが「〇〇さんはお金にセコイ」という評判は、当人について回ることになる。経理部は「監視役」でもあり、お金を通して社員の人柄、品性を見ているのだ。

「経費は会社のお金」。そのことを肝に銘じ、クリーンな経費の使い方を!

文=雨野裾