文芸・カルチャー

生まれ変わった先は、乙女ゲームに登場する意地悪なライバル令嬢! しかも王子に出会ったら死んじゃう!? 話題沸騰の『ドロップ!! ~香りの令嬢物語~』


『ドロップ!! 香りの令嬢物語』(紫水ゆきこ:著、村上ゆいち:イラスト/フロンティアワークス)

 イケメンに囲まれ好みの男子を攻略していく乙女ゲーム。その登場人物に“転生”してしまったとしたら、それも主人公ではなく意地悪なライバル令嬢になってしまったとしたらどんな物語を望むだろう。主人公の立場を奪って、あの手この手を使って好みのヒーローを落とすアンチ王道のラブコメかな……なんて思って読み始めてみたら全然違った『ドロップ!! 香りの令嬢物語』(紫水ゆきこ:著、村上ゆいち:イラスト/フロンティアワークス)。むしろ王子を避けに避けて研究者の道を邁進する、リケジョ令嬢の成長物語だったのでした。

 病におかされたことをきっかけに、自分の“前世”を思い出したコーデリア。大学院で薬学研究をしていた“彼女”の記憶によると、本来のコーデリアはヒロインの恋路を邪魔する敵役。しかも王子への想いの暴走で巻き起こした事件で命を落としてしまうというバッドエンドが用意されていると知ってしまう。だがこのとき、コーデリアはまだ3歳。今後王子にさえ出会わなければ不幸になることも死ぬこともない! と思い立った彼女は、前世の記憶をたよりに、ハーブや薬草の研究を重ね、その世界にはないはずの化粧品や香水の開発にいそしむのだ。

 正直、驚いた。そうくるか、と目から鱗。乙女ゲームのルート攻略知識を生かしてハッピーエンドをめざすのではなく、「せっかく可愛く生まれ変わったのに王子回避に人生を費やすなんてもったいない!」とその美貌と能力を十二分に利用して人生を切り開いていく姿勢は読んでいて清々しく、心地よい。研究のために必要な施設の獲得と資源の準備、それから先の試行錯誤にはファンタジーらしく魔法との融合実験もあり、その過程を読んでいるだけでお仕事小説としても楽しめる。すごい、こんな小説はじめて見たぞ、とその勢いある筆致と展開に気づけばすっかり飲み込まれていた。

 とはいえ、乙女ゲームの登場人物なのだ。研究者としての才覚とさらには商才まで発揮していくコーデリアだが、その変化は新たなルートを生み出してしまう。そう、避けているはずの王子との出会いである。

 だがコーデリアはそのことに気づいていない。あくまで、幼なじみの侯爵子息・ヴェルノーの友人・ジルとしか認識していない。1巻ではコーデリアの覚醒と王子との出会いがメインであったが、発売されたばかりの2巻――時は4年後、12歳。思春期に入りかけたいわゆるお年頃である――では、ジルの正体を知らずに文通を重ね、少しずつ、ほんの少しずつだが想いを通わせ合っている。さらにはヴェルノーにべた惚れな伯爵令嬢・ヘーゼルも登場し、乙女ゲームの舞台は着実に整いつつある。いやこれ、3巻はきっと成人式の16歳だよね? そうしたらきっと本格的な恋愛劇が始まるよね? と否が応でも期待が高まってしまう。

 利己的な悪役から一転、恋愛には初心な研究者気質のお嬢さま。みずからの意志で人生を塗り替えていく彼女が手に入れるのはいったいどんな運命なのか。個人的には、ジルやヴェルノー、その他のイケメンたちよりも、突如賢くなった娘にいいように翻弄されてツンを隠しきれずデレ続けるコーデリアのお父さまがある意味一番の本命だと思うので、求愛者たちがその壁をどう乗り越えていくかも期待したい。

文=立花もも



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