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出版とは? 編集者とは? 赤裸々に描かれた出版界の内部事情『重版未定』


『重版未定』(川崎昌平/河出書房新社)

「重版出来(じゅうはんしゅったい)」という言葉をご存じだろうか。主に書店の広告で目にする言葉だが、2016年春にドラマ化された大ヒット漫画『重版出来!』で、その読み方を知った人も多いだろう。「重版」とは本がヒットして出版社の在庫もなくなったが、それでも書店からの発注が絶えない場合、更に印刷を重ねることであり、その際に「重版出来」と広告される。しかしドラマなどでは景気のいい話が前面に描かれるが、現実の出版事情はそんなに甘いものではない。『重版未定』(川崎昌平/河出書房新社)は、なかなか重版が出ない架空の弱小出版社「漂流社」の若手編集者を主人公に、緩いタッチながらも現在の業界をリアルに描き出す漫画である。

 本書の主人公は見た目も華やかではないし、名前すらない。表紙に書かれた「そんなに刷ってどうするの? 本なんて売れるわけないだろ」というセリフからは、弱小出版社に勤める編集者の悲哀すら漂う。そんな彼が企画会議や作家とのやり取り、泊まり込みや土日出勤での編集作業など四苦八苦する姿からは、やはり出版業界の厳しさを感じることが多い。

 例えば、書店営業のエピソード。本来なら編集者が直接向かうということは少ないのだが、本書では本の卸業者である「取次」への訪問帰りに馴染みの本屋に立ち寄っている。そこでもやはり、主人公の出版社で出している本はあまり売れておらず、彼は「すぐ返本していいから置かせて」と頼みこむのだ。これを作者の川崎昌平氏は「自転車操業が常態化する業界ならではの発言」としている。中小出版社では、まず実売より目先の受注を確保し、納品実績を少しでも増やさなければならない切実な事情がうかがい知れる。

 本書では、とにかく本のヒットしている描写がない。新刊をPRするための書店イベントも、客がひとりも来ないありさまだ。イベント自体は本を売るというよりはPRが目的なのだが、客が集まらないのではそれすらも不可能。実はそのイベント、主人公が営業の力を借りずに書店と交渉して立ち上げた企画なのだ。結局、空振りに終わったのだが、それがムダだったかといえば決してそうではない。作中でも、副編集長はそれを責めることなく、その意義を優しく諭している。

 うなだれる主人公に対し「失敗ではない、編集者の最大の敵はな……ルーチンワークだ」と説く副編集長。続けて「書店イベントを通じてリアルな読者と触れ合える」と。実際には誰も来なかったことも、今はそれが「リアルな読者」だということだ。私自身、記事の感想を知り合い以外から聞くことはあまりなく、確かに気になっている部分でもある。見ず知らずの読者から直接聞かされる感想はよい糧となる。空振りに終わったイベントも主人公の経験となり、また次の出版企画への熱意に繋がっていくのだ。

 繰り返しになるが、現在の出版事情は決して甘い状況ではない。コミックなどは「初版」──最初の刷り部数の売れ行き如何では、その後に評判が上がったとしてもあまり取り扱ってもらえないという。無論、重版がかかる書籍など、ほんのひと握りだ。しかし編集者たちの熱意と弛まぬ努力があれば、ヒット作を生み出すことも夢ではない。幸い、本書もすでに重版が決まっているようであり、まさにそれを証明する好例といえるのではないだろうか。

文=木谷誠



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