たった2分で日経新聞人気連載発単行本『アイリスオーヤマの経営理念』を読破! 仕事がデキない人は「野球型」、デキる人は「サッカー型」?

ビジネス

更新日:2022/1/25

 本を読む時間がない日々忙しい人のために、ロングセラー、ベストセラー、話題の本etc…ダ・ヴィンチニュース独自の視点で選書した名著を紹介! 第3回は、日経新聞「私の履歴書」連載を単行本化した話題の書『アイリスオーヤマの経営理念』です!

 

 父が創業したプラスチック製品の町工場を19歳で継ぎ、売上高3400億円を超えるアイリスグループへと成長させた大山健太郎氏による実践理論書だ。自身の半生を振り返る「私の履歴書」、実体験から得た「私の経営理念」、過去20年間の朝礼で伝えた「社員へのメッセージ」の3部構成。長時間労働のような現在社会問題となっている労働環境や働き方、さらには大企業病に陥って不振にあえぐ企業への提言もある。

『アイリスオーヤマの経営理念』

【新しさ】★★★☆☆(生活者目線を忘れないなどオーソドックスで忘れがちな基本を大切にしている)
【実用性】★★★★★(日々の思考から得た具体的な内容だけに、汎用性は高い)
【納得度】★★★★☆(問題発生→思考→解決のプロセスを経た内容を、具体例と平易な言葉で記述)
【オリジナリティ】★★★★☆(半世紀以上の会社経営から導き出された独自の哲学が満載)
【わかりやすさ】★★★★☆(第1部、第2部、第3部と変奏曲のように内容が繰り返され、ポイントがわかりやすい)

 

①不況でも利益を出し続ける

 もともと東大阪で町工場を営んでいた大山氏は「七転び八起きは当たり前」「成功者は素直に称賛する」「いい情報は人から入ってくる」といったものづくりと商売の本質を体得。その後オイルショックで不況となり、大阪から宮城に移転する際にリストラを行って後悔したことで、好況の時に儲けることより不況の時でも利益を出し続けることを大事にする会社を目指す。それは「会社の目的は永遠に存在すること。いかなる時代環境に於いても利益の出せる仕組みを確立すること」という企業理念として結実。リストラはこの時以来一切行っていないそうだ。

 

②定番にあぐらをかかず、変化に対応し次々に攻める

 発売3年以内の「新商品比率」は50%以上と決めていて、ライバル品が出たら利益率を落としてシェアを保つのではなく、新商品を考え出して営業利益率10%を死守。選択と集中の結果、定番品だけに頼れば競合相手の登場や環境変化で会社全体が沈むことになるので、常に変化に対応する。もちろん失敗はあるが、長い目で見ればリスクを取らない会社こそ衰退すると考えている。また大手が2年かけるところを半年~1年足らずで形にし、発案者が生産ラインから物流まで目を配って「作りやすさ」「使いやすさ」を念頭に図面を引く。また原価の積み上げで価格を決めるのではなく、内製化など安くすることを考える「引き算」でコストを決定する。

advertisement

 

③ワンマン化、硬直化した組織は死ぬ

 社長が経営上の判断を下せるのは情報を独占しているから。これをやめれば社員も8割の案件で同じ判断ができると考え、経営情報を共有して管理職が経営者として動ける仕組みに変えた。そして企業には人材が必要であり、人材を効率的にマネジメントするには組織が重要。しかし組織の都合が優先されがちになるので、適材適所のローテーション人事を行う。組織というのは仕組みを変えることを嫌い、過去の延長線上でマネジメントしたがるが、その理由はズバリ「楽」だから。それでは変化についていけなくなってしまうので、世の中の変化に合わせて、そして組織の拡大に合わせて仕組みを少しずつ変化対応させていくべき。また社員は異動に際し、変化はチャンスと思えと説く。

 

④弱者は時間で、強者は能力と実力で勝負する

 これまで仕事は時間制限のない「野球型」だったが、今後は決められた時間内でいかに生産性を上げるかが問われる「サッカー型」を目指す。それには頭を使うことが重要となる。業務指針では「弱者は時間で勝負する/強者は能力実力で勝負する/自分の流した汗を安売りするな/売上は努力で、利益は知恵で決定する」と表現されている。また会社の文化である社風は会社の目的・目標を社員全体が共有し、価値観を伝承することにあるという。他人が気づかないことに気がつける感性や考え方を蓄積する。「なぜ? どうすれば?」と疑問を持ち、一歩一歩チャレンジすると市場はブルーオーシャンに変わる。

 

【まとめ】「経営というのは変化対応業である」「企業には10年に1度必ず大きな危機がくるが、これを想定外と言うようでは経営者失格」という大山氏の経営は非常にスピーディだ。「生活の場こそ最大の研究所」と語り、下請け企業から出発し、潜在ニーズを顕在化して消費者にとって買いやすい売り場で売る「メーカーベンダー」へ、さらには電化製品や食品までを手がける企業へと「変化」させた。興味深かったのは、これからの強い小売店とは「近くて便利でなじみの店」になるという指摘だった。売り場で集めた声から、データだけでは見えない潜在ニーズや既存商品の課題を掘り起こし、商品開発に生かす。それには企業の理念を理解する人材が不可欠。「企業の価値を作るのは従業員」という大山氏の言葉は、雇用や労働環境を改善するメリット、そして物が売れるには何が必要なのかを気づかせてくれることだろう。

 

文=圧縮小太郎(あっしゅくしょうたろう)

 

【第1回はこちら】たった2分でベストセラー『HARD THINGS』を読破! 会社でバカにされないために。ピンチを切り抜く”4つのアドバイス”
【第2回はこちら】たった2分でベストセラー『夢をかなえるゾウ』を読破! 自己啓発本を何冊読んでも変われない人がやるべき”4つの行動”