旅情あふれる“行き止まりの駅”――そこに佇む車止めが象徴するものは?【著者インタビュー】

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公開日:2017/2/8

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    『終着駅巡礼 – JR・私鉄の終端226駅を完全網羅!!』(鼠入昌史/イカロス出版)

 自宅と会社(昔は学校)を往復する日々を長らく送っている。自動車運転免許を持たない私にとって、電車は移動手段におけるライフライン的存在。そんな鉄道路線の終着駅にスポットを当てたのが、本書『終着駅巡礼 – JR・私鉄の終端226駅を完全網羅!!』(鼠入昌史/イカロス出版)だ。

 今回は、執筆を担当したライター・鼠入昌史氏にインタビューを行ない、なぜ終着駅を採り上げたのか、また鉄道の旅の醍醐味などについて直接聞いてみた。

――まず、終着駅を題材にした理由を教えてください。

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鼠入昌史氏(以下、鼠入)「終着駅に限らず、駅にはそれぞれ『物語』があります。そこに駅ができた経緯であったり、その近辺に住んでいる人たちの生活であったり……そういう物語が特に際立つのが終着駅。終点だからこそのおもしろさが、終着駅にはあるんですよ」

――終着駅と聞くと、この先にはもう走れる道がない、という場所を想像してしまいますが……。

鼠入「地理的な要因で線路が行き止まりとなったものも当然あります。たとえば、日本最北端のJR北海道宗谷本線の稚内駅。ですが、終着駅は地理的な末端よりも、ほかの理由でできたもののほうが多いんです。つながる予定だったものがまだつながっていないとか、元々あった線が廃止になったとか。岐阜県にある越美南線の終着駅・北濃駅と越美北線の終着駅・九頭竜湖駅は、つながって越美線となる予定でしたが、計画が頓挫していまも別々のまま。線が廃止になった例では、石川県の七尾線の穴水駅がありますね。以前は輪島駅まで線路がつながっているターミナル駅でしたが、平成17年に穴水駅から先はすべて廃止されました」

――終着駅の成り立ちには、それぞれドラマがある、と。では、行っておいたほうがいい、おすすめの駅はどこですか?

鼠入「千葉県銚子電鉄の外川駅では日が暮れると、むき出しの白熱電球が灯るんです。これが何ともいい雰囲気で。東京から日帰りで行けるのもポイントですね。あとは、異国情緒というか、『終着駅来た感』が味わえる長崎駅もおすすめです」

――終点まで行って初めて見られる景色があるのはいいですよね。

鼠入「目的地として行く終着駅ももちろんいいですが、ぼくは鉄道の旅をするうえで大事なのは過程だと思っています。車ではなく、あえて鉄道を使うことで、普段その線を利用している人たちの様子や地域ごとの特色を感じられる。たとえば終点が近づくにつれて乗客が減っていく、または増えていくというのも、線によってそれぞれ違う。ただ目的地を目指すのと、そういう地元の空気感を味わいながら行くのとでは、着いたときの印象も違うと思うんです」

――なるほど。ローカル線でのんびりっていうのも旅の醍醐味なんですね。

鼠入「田舎だと都会と違って接続の概念がないので、事前に時刻表を調べて行かないと大変ですけどね(笑)。でもそうやって時刻表を調べて、ルートを考えるという過程もまた、鉄道の旅のおもしろいところで。そうして終着駅に着いて車止めを見たとき、そこに何を見るか。車止めは、レールの上と外との境界線だから、またレールに戻ってもいいし、レールから外れて好きな道を進んでもいい。その先は自由なんですよ」

 鉄道の旅の行く先には、必ずどこかに車止めという行き止まりがある。その車止めを「終わり」と見るか、「始まり」と見るかはその人次第。本書の表紙を飾る車止めが、あなたにはどう映るだろうか。

文=上原純(Office Ti+)