店長は巨大カエル、時給950円の駄菓子屋『かわずや』でバイトする女子高生と恋はあるのか?

マンガ

更新日:2017/2/10


『かわずや』(蟹丹/KADOKAWA)

 昭和半ばの世代なら、必ずお世話になっていたと思う駄菓子屋さん。思い起こされるのは山ほどの駄菓子だけではなく、遊び友達や駄菓子屋のおばちゃんとの楽しい時間、ゆるやかに流れる時。その存在を知らない若い世代でも、陽だまりのようなほっこり幸せなイメージを思い浮かべるのではないだろうか。そんな昭和的なノスタルジックで小さな幸福感にあふれた漫画が、この『かわずや』(蟹丹/KADOKAWA)だ。

 とある田舎の女子高生ゆうが、雨宿りをするためたまたま入り込んだ駄菓子屋“かわずや”の軒先。店の奥から出てきたのは、割烹着を着たおばあちゃん……ではなく巨大なカエル??? の店長さんだった。雨に濡れたゆうに、タオルと傘をそっと差し出してくれるカエル店長。しばし呆然としていたゆうの目に飛び込んできたのは、ここかわずやのバイト募集の張り紙だった(なんと時給950円の好待遇!)。店長の優しさに惹かれたゆうは、そのままお店の中へ。最初こそその見た目にびっくりしたゆうだったが、彼の人?柄に触れたことで、思い切ってアルバイトを始めてみることになる――。

 ゆったりとした時間の流れの中で紡ぎ出される、ゆうと店長、そして周囲の人たちのポクポクした温かさが本作の魅力なのだが、それだけではなく、なんと言っても毎回のお話のオチが秀逸。思わずクスッとしたり、え? っとなったり、プッと吹いちゃったり。この面白さとゆるさのコントラストがなんとも絶妙なのだ。

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 また、作者の蟹丹さんが描き出す、田舎の風景や駄菓子屋の店内はとても懐かしい雰囲気を醸し出し、小さかったあの頃に孵りたく……もとい帰りたくなる気分にさせられる。そんな場所で生き生きと動き回る可愛らしいキャラクターたちが紡ぐ話には、誰もがほっと優しい気持ちにさせられること間違いないだろう。

 店長がなぜカエルさんなのかはさておいて、温かさが染み渡るショートエピソードでまとめられた本作。例えば子供“あるある”の「アイス落としちゃった」事件。お約束のように落として泣いている子供に、内緒と言って、店長はもう一個アイスをあげるのだが……。まあ、子供への内緒って、息をするなっていうのと同じだから。結末は推して知るべしです。

 他にも店長の生態? に迫る回や、ゆうと店長2人でお出かけの回など、歯がゆいような微笑ましいような、2人が織りなすほっこりした日々がいくつもと……。決して大笑いしたり、手に汗握ることはない日常の世界だが、本を閉じた後は、自分も人に優しくしてあげたくなる、そんな読感。しみじみと身に染みるこの心地よさを、みなさんもどうぞご堪能あれ。……それにつけても、優しい店長と時給950円。いいなぁ……。

 なお、この『かわずや』はKADOKAWAウェブコミックサイト「コミックNewtype」で連載中だ。ショートエッセイのような数ページでの1話完結型。途中からでもすんなり読める作品なので、気になった人はまずこちらで試しに読んでみるのもいい。もちろん、愛読している方はコミックでも読んでもらいたい。きっと、ウェブ連載にはなかったもうひとつのオチにくすりとすることだろう。