トイレが使えない、紙もない…どうする!? 知っておけばいざという時に役に立つ「ノグソ」の知識

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更新日:2018/3/1

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    『「糞土思想」が地球を救う 葉っぱのぐそをはじめよう』(伊沢正名/山と溪谷社)

 読者諸氏は野外での排便「ノグソ」の経験があるだろうか。実は小生、お腹が弱くて小学生当時、下校中に何度かしている。残念ながら当時、通学路には公衆トイレがなかったのだ。また登山などのアウトドアでも、トイレが整備されていない場所へ行けば当然ながら「ノグソ」となる。しかしその後、排泄物自体はやがて土に還るが、拭いた紙は水に溶けなければそのまま残ってしまう。それもまた「環境汚染」ではないかと問いかけるのが、この『「糞土思想」が地球を救う 葉っぱのぐそをはじめよう』(伊沢正名/山と溪谷社)だ。

 本書は著者が40年間実践してきた「ノグソ」の経験をもとに、その哲学やオススメの作法、紙を使わず拭き取るのに適した野草の数々を解説。野草紹介も「お尻で見る葉っぱ図鑑」と題し、葉っぱの数々をカラー写真で紹介。どれも名前こそ知らなかったものの、見たことのあるものばかりだ。さらにそれぞれを「気持ち良くお尻を拭く葉っぱの三条件」とし、「安心して使える大きさと丈夫さ柔らかさ」と「尻触りの良さ」、そして「吸着する拭取力」の三項目で評価している。

 こう見えて本書、実は災害時のサバイバルガイドでもある。大災害時にはトイレが使えなくなる可能性も高い。上下水道が破損した場合、水洗トイレが使えないからだ。阪神・淡路大震災では、仮設トイレでしのいだが排泄物の回収が間に合わず、便器からあふれだしたとの証言が当時のテレビであった。また回収しても処理施設が停止している可能性もある。

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 そして、東日本大震災ではトイレットペーパーが不足したのも記憶に新しい。現在、トイレットペーパーの国内生産の約4割が静岡県で行なわれているが、もし東海地震などでそこが被災した場合、全国的に供給不足が予想され、経済産業省も備蓄を呼び掛けているほど。そこで役立つのが本書で薦める「葉っぱノグソ」なのだ。作者自身も、東日本大震災時に自宅が半壊し、3週間の断水を経験したのだが、普段から「葉っぱノグソ」を実践していたために、全くトイレには悩まされなかったという。では、その作法を見てみよう。

「ノグソ」だけに、どこでも良いという訳にはいかない。道路上は勿論、高山や湿原、清流や原生林など自然保護環境は避けるべし。自宅に庭があれば入門にいいだろう。また、出しっぱなしで放置は汚いので、直径20センチ、深さ5~10センチほどの穴を掘りそこへ排便。後は必ず埋め戻そう。尚、埋めた後に分解吸収するまで1年ほど掛かるため、そこへ枯れ枝を交差させ立てておき目印にすると良い。同じ場所を掘り返してしまうことも防げる。

 排便後の拭き取りに使うのが「お尻で見る葉っぱ図鑑」で紹介された葉っぱたちである。ヨモギやタンポポもオススメだが、中でも面白いのはミントの葉だろうか。本書でもその爽快感を「デザートで 締めの一拭き 爽やかに」と詠むほど。葉っぱ自体は小さくて拭きづらいのだが、他の葉っぱで拭いた後にこれでひと撫ですれば「爽やかな香りと爽快感に包まれて、夏の暑苦しさも忘れるほど」だという。残念ながら現在の国内で、野生のミントはそうそうあるものではないが、庭に植えてあるなら是非。ただし、刺激に弱い人は奥までの拭き過ぎにご注意を。

 人にとって食事と同様に重要な生理現象である排泄だが、その重要性に反して表立って語られることは少ないのが実情。タイトルにある「糞土思想」とは、「食は権利、ウンコは責任、野糞は命の返し方」だと著者は説く。排泄物もその元は自身が食べた命であり、その命を自然へと還元することが「ノグソ」なのだ。その機会は少ないかもしれないが、いざという時には本書を思い出し、快適で正しい「ノグソ」を実践してほしい。

文=犬山しんのすけ