その数60冊以上! 村上春樹翻訳本、海外文学おすすめ4作品は?『最後の瞬間のすごく大きな変化』は女性にこそ読んでほしい!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

 村上春樹の長編小説『騎士団長殺し』(新潮社)が2月24日に発売決定! 『1Q84』以来7年ぶりの長編とだけあって、Amazonでは予約注文の時点ですでにランキング入りを果たすという人気ぶりです。発売まで待ちきれず、これまでの作品を読み返している人も多いのではないでしょうか? 長編・短編・エッセイ、どれも村上作品ならではの良さがありますが、あえて読んでいただきたいのが村上春樹が翻訳した海外の小説たち。「もはや村上作品じゃなくないか?」とツッコミを入れられそうですが、騙されたつもりで読んでみてください! 訳文とはいえ、ガッツリ村上調で描かれている作品も多いですし、原著そのものの良さも味わえるし、一石二鳥で楽しむことができます。そこで、村上春樹の訳した海外文学のなかからおすすめ4冊を厳選してみました!

 

『グレート・ギャツビー』
(フランシス・スコット・フィッツジェラルド/中央公論新社)

映画、『華麗なるギャツビー』も有名ですね。ざっくり言うと、謎の男・ギャツビーが、かつての恋人を取り戻したい一心で、彼女の家の近くに引っ越してきて散財しまくる話。一途すぎる愛のせいで破滅に追い込まれていくギャツビーの姿に、読者はスリルと切なさの両方を味わうことができるでしょう。アメリカ文学を代表する作品のひとつで、村上春樹も同書のあとがきに「これまでの人生で巡り合った重要な3冊」(ちなみに残り2冊は『カラマーゾフの兄弟』と『ロング・グッドバイ』)のひとつと記しています。『ノルウェイの森』でも主人公・ワタナベが同作品を繰り返し読むシーンが描かれていますね。村上ファンならぜひご一読を!

 

『キャッチャー・イン・ザ・ライ』
(ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー/白水社)

旧訳のタイトル、『ライ麦畑でつかまえて』のほうが馴染み深いかもしれません。高校を退学処分となった17歳のホールデンがニューヨークの街を徘徊する物語ですが、実はこちらの作品も『ノルウェイの森』に出てきます。主人公・ワタナベが、レイコさんという年配の女性から「不思議なしゃべり方するわねえ」「あの『ライ麦畑』の男の子の真似しているわけじゃないわよね」と、からかわれるシーンに覚えがある人もいるのでは? 確かに、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』はホールデンの独特な語り口が魅力。さらに新訳ではホールデンの口癖が「はっきり言って」「やれやれ」な時点で、背後に村上春樹の影がちらつきます。永遠の青春小説と名高い同作を村上春樹の訳で読めるのはある意味贅沢かも。

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『ロング・グッドバイ』
(レイモンド・チャンドラー/早川書房)

私立探偵、フィリップ・マーロウの活躍を描いたハードボイルドシリーズ。そのうちのひとつである『ロング・グッドバイ』はマーロウの友人、テリー・レノックスを巡る物語です。テリーのメキシコ逃亡に手を貸すマーロウ、その後、妻殺しの容疑をかけられたテリーが自殺したり、殺されたテリーの妻と不倫関係にあった作家が殺されたりと彼の周囲はどんどんきな臭くなっていきますが、果たしてその真相とは…。

同書の魅力といえば、主人公マーロウの男気あふれるキャラでしょう。警察に拷問まがいの尋問を受けようが、ギャングから脅しをかけられようがマーロウは冷静沈着、「やれやれ」といいながらパスタでも茹でそうな勢いです。そんな彼のクールさは村上春樹の小説の主人公とも似通った部分があるかもしれません。村上作品の主人公が好きな人はきっとこの小説も楽しく読めるはず!

 

『最後の瞬間のすごく大きな変化』(グレイス・ペイリー/文藝春秋)

作者のグレイス・ペイリー氏はアメリカ生まれの女流作家。彼女が世に送り出した小説は短編3冊のみですが、アメリカではいまだに熱狂的な女性ファンが多いことでも有名です。全17篇からなる同書には、ユダヤ系の中年女性をはじめ、離婚した女性、ダウンタウンに住む子沢山の女性など、ありとあらゆる女性が登場します。彼女たちは、それぞれ家庭環境やら貧困やらに悩まされていてキラキラ女子とは程遠い存在。ただ、そうしたストーリーの根底には、人種やセクシャル的な問題がそこはかとなく漂っています。フェミニストで社会運動家でもあったペイリー氏。彼女の小説が出版されたのは50~80年代ですが、現代の私たちが読んでもそのメッセージ性を感じることができるでしょう。もちろん、「グレイス・ペイリーの物語と文体には、いったんはまりこむと、もうこれなしにはいられなくなるという、不思議な中毒性があって…」と、村上春樹もあとがきに記しているように、その独特な文章も一級品! ぜひ女性に読んでいただきたい一冊です。

 

ここで紹介したのは、60冊以上ある村上春樹の翻訳シリーズの中のごく一部。他にも、猫たちが主役の童話『空飛び猫』(アシュラー・K.ル・グウィン/講談社)や、短編恋愛小説のアンソロジー『恋しくて – TEN SELECTED LOVE STORIES』(中央公論社)などもライトに読めておすすめです。海外文学の影響を色濃く受けていると言われる村上作品。これまで発売された村上春樹の作品と、彼が翻訳した小説を比較してみるのも面白いかもしれませんね。

文=田中よし子(清談社)