応募総数4878本の頂点! 余命0。“難病もの”の方式通り、主人公は恋に落ちるが…“死”の圧倒的な存在感が愛の純度を増す! ラスト5行は必読!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12


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『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜/KADOKAWA)

『ビブリア古書堂の事件手帖』の三上延、『探偵・日暮旅人』の山口幸三郎、『ちょっと今から仕事やめてくる』の北川恵海など、映像化が相次ぐ人気作家を多数輩出してきた実績を持つ小説系の新人賞、屈指の難関である電撃小説大賞。

応募総数4,878本の中から選ばれた、第23回〈大賞〉受賞作品『君は月夜に光り輝く』がメディアワークス文庫から2月25日に発売される。

季節は春。高校一年生の卓也は、クラスを代表して長期入院中の同級生、渡良瀬まみずのお見舞いに行く。不治の病・発光病を患うまみずは、本人曰く「余命ゼロ」。いつ死んでもおかしくない状況だという。まみずの宝物であるスノードームを壊してしまった償いに、卓也は彼女に代わって「死ぬまでにしたいことリスト」に書かれている願いを、一つ一つ実行してゆく――。

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題名の“月夜に光り輝く”は比喩ではない。発光病の症状として、月の光を浴びると、まみずは全身から淡い光を放つ。死期が近づけば近づくほど光は強さを増し、肉体は衰弱する。美しくておぞましい架空の病だ。

本作は、敢えてジャンル分けするならば、シンプルで、衒いのない“難病もの”に相当するだろう。“難病もの”の方式にのっとって、卓也とまみずは恋に落ちる。死が背景にあるからこそ、愛は純度を増し、濃密になる。

このフォーマットの押さえどころをしっかりと踏まえながらも、恋愛以上に色濃いのは、中心に据えてある、死なるものの圧倒的な存在感だ。

心が苦しくならないよう、死を受け入れようと葛藤するまみず。姉を交通事故で亡くして以来、生の実感を持てずにいる卓也。同じく兄を事故で喪い、以来、虚無的に生きているクラスメートの香山。

さまざまな形の死が登場人物たちを揺さぶって、ともすれば生きる実感を奪おうとする。死の絶対性と比べると、生はあまりにもあやふやで脆弱で、喜びよりも苦しみの方が、嬉しさよりも悲しさの方が、彼らを惹きつけ、結びつける。

「愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃあなりません。」
中原中也の詩「春日狂想」からの一節が、前半部で登場する。

この文言は、まるで不吉な予言のように折りにふれて卓也の脳裏に浮かび上がり、底の方で響き続ける。静かに、ひたひたと緊迫感が増してゆき、“難病もの”のフォーマットも、登場人物たちの心の動きも、物語が進むにつれ、だんだんどこかへずれていく。

ふたりは愛しあうことで、死ぬこと、生きることに直面する。いや、せざるを得なくなる。死は、だれにとっても平等で、死なない者はいない。死は特別ではない。死からは逃げられない。

それなのに、どうして私たちは生きているのだろう。生きなければならないのだろう。きっとだれもが抱いている答えの出ないこの命題に、彼らは全身全霊を懸けて臨む。

卓也はまみずを愛することで死に立ち向かい、まみずは卓也を愛することで死への恐怖を乗り越える。それによってかつてなく生きている喜びを感じる。人生を寿ぐ。

クライマックスに至って、物語はどこか宗教的な、神話的な様相さえ帯びてくる。生きること、死ぬこと、愛すること、悲しむことは表裏一体になっていて、片方だけでは不完全。だから、死や悲しみに怯える必要はない。かならずそれらは生にも愛にもつながっているのだから。

そういうことを作者はシンプルな筆致で力強く、まっすぐに伝えてくる。最終頁の最後の五行には、生への祝福と死への畏敬が凝縮されている。生きることも、死ぬことも、どちらとも同じほど、肯定している。

文=皆川ちか