落石によるケガで身動きがとれない!謎の黒いカビが耳に…!洞窟に魅せられた「ばか」の生き様

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公開日:2017/2/27

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    『すきあらば、前人未到の洞窟探検 洞窟ばか』(吉田勝次/扶桑社)

 天才とばかは紙一重――この海の果てには何があるのか、地球が丸いことをまだ知らなかった冒険者が新大陸を発見した。あの大空の向こうはどうなっているのか、そう考えた先人たちがロケットを開発し、ついに人類は月に到達する。当時の常識人たちは「あいつは“ばか”だ」と指差し笑っていたことだろう。だが、歴史に名を残すような偉人たちは、一見するとばかげているようなことを淡々と、愚直にこなしていたのかもしれない。

 果たしてこの男は偉人か、あるいはばかなのか。そんな期待を抱いてしまうのが、好奇心と情熱を未踏の洞窟に向ける『すきあらば、前人未到の洞窟探検 洞窟ばか』(吉田勝次/扶桑社)の著者であり、洞窟探検家の吉田勝次氏。彼は28歳の時、洞窟探検に出会い、虜となる。曰く、常に洞窟のことを考えてしまう“洞窟病”に感染した。

 当然ながら本書で語られる洞窟とは、至るところに柵が張り巡らされ、安全に観光が楽しめる洞窟ではない。人の手が行き届いていない、危険な場所を探検する。本書では、著者が探検中に出くわした危険の数々が述べられている。

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 例えば、落石によるケガだ。著者は、とある洞窟の探検中に、握りこぶし大の石が左肩を直撃。激しい痛みに加え、左半身が痺れて全く動かない状況に。しかも、そんな状態のまま東京タワーに匹敵する300メートル級の縦穴を登らなければならなかったという。30時間をかけて無事に登り切ったということだが、その恐怖・苦悩たるや、もはや想像の範疇を超えている。

 これだけではない。洞窟探検を終えた著者は自分の耳の異変に気付く。病院に行くと鼓膜の周りに、謎の黒いカビのようなものが。正体不明なうえ、時間経過とともに増えていったそう。しかも謎のカビの感染箇所が味覚神経のそばで、詳細な検査をしようとすれば味覚を失ってしまうかもしれないという事態に。最終的に、面倒になった著者はそのまま放置したところ、著者の自己治癒能力でまさかの完治! この記述を読み、洞窟の恐ろしさと著者のあまりに楽観的な対応に開いた口が塞がらなかった。

 他にも、前人未到の洞窟で迷子になったり、人がギリギリ入れる通路を進んでいたら身体がはまってしまい身動きが取れなくなったり、洞窟内で遺体を発見し、その搬出をしたりするなどトラブルはつきない。我々からすれば「そんな思いまでして、なぜ洞窟探検するの?」と感じてしまうものだが…。

 「未知の空間に到達できれば、途方もない『感動』を味わえる。腹の底から『ドキドキ』『ワクワク』できる」

 このように著者は語っている。確かに彼は様々なトラブルに巻き込まれながらも洞窟探検を本当に楽しんでいることが、本書から伝わってくる。それは、裏山探検や秘密基地作りをやっている子供のような無邪気さだ。この純粋に“楽しむ力”こそが、冒頭に述べた偉人たちにも共通するのではないだろうか。自分がやっていることを心の底から楽しむ、これこそ彼らが持つ武器であり、才能なのだろう。

 正直、著者のように洞窟に魅せられることはないかもしれない。だが、彼のように何か楽しめるものが見つけられれば、「天才かばかか」を抜きにして幸せ者であることは間違いない。

文=冴島友貴