2020年の大学入試センター試験廃止で教育はどう変わる? 求められる「教師のメンタリティの改革」とは

社会

公開日:2017/3/2

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    『2020年からの教師問題(ベスト新書)』(石川一郎/ベストセラーズ)

 大学入試で次のような問題が出たら、あなたは答えられるだろうか?

【問い1】
日本が10月28日午前7時の時、ニューヨークは何月何日でしょうか

【問い2】
世界では時差を利用したビジネスが行われている。どのようなビジネスか説明しなさい

 これらは『2020年からの教師問題(ベスト新書)』(石川一郎/ベストセラーズ)の冒頭で出題されている問い。本書によれば、【問い1】は授業で習った知識や教科書に書いてある内容が身についていれば、確実に正解にたどり着ける。【問い2】は、世界で行われている時差ビジネスの例はやはり教科書や授業で大概取り上げられているため、思い出しながら記述することは可能。

 しかし、次のような問いが出題されたら、解けるだろうか。

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【問い3】
もし、地球が東から西に自転していたとしたら、世界は現状とどのように異なっていたと考えられるか、いくつかの観点から考察せよ

 この問いは【問い1】【問い2】とは違い、これまでに習った知識(自転の定義)で対応できない。また、決まった正解があるわけでもない。本書によると、2020年の大学入試センター試験廃止を契機に、このような「学校の授業で教わった知識を覚えてそのまま再現するだけでは対応できない問題」が大学入試で出題されるようになるという。ちなみに、【問い3】は2014年度に東京大学理科一類の「外国学校卒業学生特別選考」で、実際に出題された小論文問題だ。

 文部科学省は、教育改革を進めている。そのなかでも、とりわけ力を入れているのは、「クリエイティブな思考力」を生徒・学生に身につけさせること。

 背景には、日本のグローバル化がある。言語だけでなく、文化的背景や宗教などが違えば、価値観の相違が生まれる。しかし、互いの利害を一致させるためには、単純に「その考え方もいいよね」と多様な意見をすべて認めていくわけにはいかない。これまでには見つけられなかった、互いが納得できる「最適解」を導き出すための「クリエイティブな思考力」が必要なのだ。

 また、AIの普及も、教育改革に拍車をかけている。2045年には、AIが人類の能力を超える地点(シンギュラリティ)に到達するという指摘がある。

「2011年に小学校に入学した子供たちの65%は大学卒業後、今は存在していない職業に就く」
ニューヨーク市立大学大学院センター教授 キャシー・デビッドソン氏

「今後10年から20年程度で、アメリカの雇用者の半数近くの仕事が自動化される可能性が高い」
オックスフォード大学准教授 マイケル・オズボーン氏

 これからの人材は、「クリエイティブな思考力」で、変容する社会に対応していく必要がある。大学入試が変われば、小・中・高校の教育も変わる。2020年の大学入試改革の成否が、国の将来を握っている。

 教育改革を成功させるうえでのキーパーソンが、教育を実行する教師だ。しかし、本書は、2020年以降は「教師のメンタリティの改革も必要になる」と予想している。どういうことか。

 現在、「いい教師」とされる教師の多くは、実績があるカリスマ型。生徒や保護者から「あの先生についていけば大丈夫」という信頼感が厚い。本書によると、このタイプの教師は指示を徹底し、明確な「目標」を設定するのが特徴だ。しかし、2020年以降の「正解のない『問い』」と向き合わなければならない教育の実践が求められるようになると、「答え」は生徒一人ひとりが自分で考えて見つけていくしかなくなる。このタイプが得意としていた指示は、授業で出せなくなる。これまでの「指示する、指示を待つ」の関係の見直しが、授業現場に求められる。

 また、このタイプの教師は「自分が担任した学年で◯◯大学に何人合格させた」「自分が指導した◯年度のチームを◯◯大会で優勝させた」など、「自分が~させた」という感覚を持っていることが多い。本書はこれを「教師の主役感」と名付けている。2020年からの教育では、主役感を捨てきれない教師が出番を失うことになると、本書は見ている。

 教師の覚悟と共に、学校を支える保護者の理解も重要になりそうだ。

文=ルートつつみ