わざわざ夜中に並ぶファン、なぜ? 0時ジャストに村上春樹の『騎士団長殺し』を買う人を追った

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

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7年ぶりとなる村上春樹の長編小説、『騎士団長殺し』(新潮社)が2月24日(金)に発売されました。村上春樹の長編といえば、発売前から関連イベントが開催されるなど、ちょっとしたお祭り騒ぎになることでも知られていますよね。特に盛り上がりを見せるのが、発売日当日。発売日0時のカウントダウンやトークショーなど、イベントを行う書店も多いのです。そこで筆者も、発売日の興奮を体感すべく、0時ジャストに行われる『騎士団長殺し』の発売会に行ってみました!

向かったのは、三省堂書店神保町本店。0時15分前に店舗の前に到着すると…なんと、店舗正面にあった「三省堂書店」と書かれていたはずの看板が「村上春樹堂」になっているではありませんか! メインのロゴまでまるっと変えちゃうあたり、書店もかなりの気合いが入っているのが分かります。

店内に入ってみると、数人のお客さんたちに加えテレビ局の撮影スタッフの姿もちらほら。カウントダウンに向けて静かですが異様な熱気が高まっていき、0時5分前になると、続々お客さんが入店。気がつけばフロアには50人近くのファンが集っていました。

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そしてとうとう、「カウントダウンイベントを始めますので、みなさん近くにお集まりください」との店内アナウンスが! 販売スタッフの誘導に従い、黒い仕切りの回りをみんなで取り囲みます。どうやら、横に置いてあるデジタル時計に合わせて秒読みをし、0時ちょうどを回ったら仕切りが取り払われ、新刊がお目見えするしくみ。

「1分前です」「30秒前でーす」と、アナウンスされる度にジリジリと黒い仕切りに近づいていく村上ファンたち。そしてついに発売10秒前、店員さんの合図ともにみんなで声を揃えてカウントダウン!

5、4、3、2、1、0……。

ジャーン! おめでとう(?) そして出ました! 神保町本店名物、村上春樹本の“タワー積み”! 黒い布の向こうには『騎士団長殺し』の第1部・第2部が、絶妙なバランスで2メートル前後の高さに積み上げられていたのです!

「発売でございまーす! みなさんお待たせしました! 村上春樹さん『騎士団長殺し』発売のお時間でございます!」という店員さんの合図のあと、春樹タワーに群がるファンたち。

これ、真中から抜き取ったらジェンガみたいに崩れ落ちるよな…と、心配していたら、「商品はレジのほうにもありますので、こちらからお願いしまーす」との声が。その後、新刊を手にしたお客さんたちがレジ前で列をなし始めます。何でしょう、この不思議な高揚感。絶対次の朝でも買えるはずなのに、今すぐ買わなきゃという焦りにも似た気持ちが沸き起こりました。

そう、今日でも明日でも普通に買えるはずなんです。では、あえて今日の発売会に足を運んだ人たちは、どんな気持ちで来たのでしょうか? レジで順番待ちをしている人たちにインタビューをしてみましたよ!

「今日は仕事帰りに来ました! 大好きな村上春樹の7年ぶりの長編なので、早く手に取りたい一心で(笑)。彼の小説は全部読んでいますよ。特に好きな作品? 村上春樹が翻訳した『心臓を貫かれて』ですかね」(34歳/女性/会社員)

かなりマニアックなセレクトですね! いままでどれだけ村上作品を読み込んできたかが伝わります。

「ファンなのでやっぱり販売開始とともに買いたいですね。好きな作品は定番だけど『ノルウェイの森』です」(女性/学生)

やはりファンたるもの、新刊は“できるだけ早く手に取りたい”という心理が働く様子。

「近所に住んでいるし、賑やかなのでつられて参加してみました! 村上春樹の小説はそこまで熟読しているわけではないけど、新作が出るとまた読みたくなるような中毒性がありますよね」(31歳/女性/会社員)

明日も仕事だというこちらの女性、「村上春樹の本は好きだけど、ハルキストって言われるのは照れくさい(笑)」とのこと。

一方、今回のイベントに参加していたのは、なにも村上マニアばかりではありません。新刊発売の「イベント感」につられてやってくる人も見受けられました。

「実は村上春樹の作品はあまり読んだことないんですが、これから始まる『新刊を徹夜で読む会』に参加したくて来ました。なんかイベント性があっていいですよね」(22歳/女性/学生)

三省堂書店神保町本店では、0時の発売会のあと、朝6時まで店内のスペースで新刊を読むことができる「新刊を徹夜で読む会」も開催予定。固定ファンじゃないのに中々ハードなイベントに参加しますね…。

「今日はたまたま書店の前を通りかかって、賑やかだったから飛び入りで並びました(笑)。新刊は気になってたので買えて良かったです」(20代/男性)

どうやら、今回の新刊発売会には「少しでも早く新刊を手にしたい」という人と、「イベントの賑やかさにつられて来た」という人、少なくともふたつの2つの層に分かれているようです。

ただ購入するだけでなく、その本にちなんだイベント感を味わうのもいいもの。もちろん筆者も今回の発売会で新刊1部2部とも購入しました。今から読むのが楽しみです!

文=園屋陽子