紫式部も書かなかった性描写をセキララ再現!? 光源氏の元カノたちが愛欲の日々を語り出す『源氏姉妹』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『源氏姉妹』(酒井順子/新潮社)

みなさまは「姉妹」(シスターズ)をご存じでしょうか? 血縁関係のある姉と妹のことではありません。「ある男と共通して肉体関係を持った複数の女の呼称」。ちょっと下品な言い方をすれば、「穴兄弟」の女性版ということです。

日本人なら誰もが知っている平安時代の長編小説『源氏物語』は、光源氏という超絶イケメンの性的に奔放なプレイボーイのせいで、「シスターズ」が多数出現します。光源氏を介し、藤壺、紫上、葵上、夕顔、花散里などなど、多くの女性たちが「私も光源氏としちゃったの~!」という「シスターズ」になります。

『源氏姉妹』(酒井順子/新潮社)は、『源氏物語』を分析&妄想した結果、紫式部が描かなかった性描写を、シスターズを通してセキララに再現した異色の物語。

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著者の酒井順子さんは「負け犬」(30代以上、未婚、子ナシ女性を指す)という言葉を流行らせたエッセイスト。酒井さんのフィルターを通して描かれる「源氏シスターズ」たちの「語り」は、ただの小説ではありませんでした。

他人様の「情事」を覗いているような禁断感にあふれつつも、下品ないやらしさがなく、光源氏と「しちゃった」シスターズたちに共感してしまうことも。「情愛」のプラス面、マイナス面の感情が入り乱れ、けれども繊細に、ていねいに描かれている恋愛模様は、シスターズたちの「秘密の告白」を聞いているみたいで、まるでエッセイのようでした。

『源氏物語』を気軽に知るための副読本として、学生時代、マンガ『あさきゆめみし』を読んだという方も多いかと思いますが、私は本作も『あさきゆめみし』に続く新時代の「副読本」になっていいと思います。

光源氏を愛し、愛され、翻弄され、幸せになった女性、不幸になってしまった女性、登場人物たちの心情がよく分かるのです。セキララに語られる「性描写」も直截的ではないですし、愛欲を語る上では欠かせないもの。ネットで過激なエロ動画が簡単に観られてしまう現代っ子にとっては、本作の性描写なんてきっと上品で美しく感じるものでしょう。

本作は、女性たちのキャラクター性がしっかりと分析され、際立っています。そこが分かりやすく、感情移入しやすいところ。

おっとりして気が弱いけれど、男女の行為の最中だけは能動性を発揮する天性の床上手の夕顔。しっかり者の専業主婦タイプで、どれだけセックスレスが続こうとも文句を言わずに尽くす地味な花散里。身分とプライドが高く、「下賤の女と比べられること」が耐えられずに生霊となり、シスターズを呪い殺してしまった六条御息所。自尊心が高く、光源氏に対して素直になれなかった葵上……。

彼女たちの「気持ち」が手に取るように分かるのです。これも著者の筆力の高さと、『源氏物語』に対するプロファイル力の秀逸さが為せる業でしょう。

巻末に載っている、ママ会、エロ会、ブス会などの、ジャンルごとの「シスターズ座談会」も最高に面白かったです。原作では決してあり得ない夢の共演は、『源氏物語』と「女性の気持ち」を熟知した酒井さんにしか書けないのではないでしょうか。

光源氏の元カノたちが現代に召喚され、当時の愛欲の日々を語り出す本書。『源氏物語』ファン、必見です。

文=雨野裾