男なんて「洗って返せば大丈夫」。西原理恵子の身近な人たちの名言(?)集

暮らし

公開日:2017/3/13

『洗えば使える泥名言』(西原理恵子/文藝春秋)

 個人の考え方や生き方を、シミひとつないような正論で徹底的に叩きのめす様がSNS上などでよく見受けられる。もちろん、不愉快に思うことはなるべく正していきたい。ただ、昨今のモラルに対する過剰な圧は閉鎖的な価値観を生み出しているようにも感じられる。

 例えば、去年から度々ワイドショーを賑わす不倫問題。確かに、不倫は愛を誓った相手への裏切り行為。しかし、不倫=悪と糾弾する人は、「もしかしたら自分も不倫をしてしまうかも」と想像することはないのだろうか? 何が起こるか分からないのが人生。「私が不倫なんてするわけない!」と突っぱねるのではなく、今後の人生のためにスキャンダルを反面教師として、事の次第を見守り、良し悪しだけではない、別の角度から考えるべきではないのか。

 西原理恵子によるきれいごと一切なしの名言集『洗えば使える泥名言』(文藝春秋)は、昨今の閉鎖的な価値観細く裂いてガス抜きするような爽快感があった。

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 本書は生きる上で切り離せない命題が5つの章―【仕事】【お金】【男と女】【家族】【生と死】―に分けられ、これまで西原が出会ってきたドイヒー名言とそのエピソードが紹介される。

取材が出来なくても「それを描くのがお前の仕事だー」

 例えば本書に収められている第一の名言「それを描くのがお前の仕事だー」は、若かりし西原が取材先のラーメン屋の休業で、執筆不可能な事態に陥った時、編集長に言われた一言。

 同じライターの立場として、取材なしで原稿を執筆するのがどれだけ無謀なことかは分かる。裏取りをしないままメディアに載せれば、間違いなく誤報につながる。

 そこで西原は考えた挙句、ボヤいたり、ボケたり、前号で掲載した店の悪口を描いて、なんとか原稿を執筆。今でこそ、「ハラスメント!」と言及できそうな話だが、西原は当時を振り返って「ホントに描けない時にどうボケるかというのを学びましたね」と教訓として受け止める。

男なんて「洗って返せば大丈夫」

 不倫に関してはこんな名言があった。「洗って返せば大丈夫」。ハンカチ借りたんじゃないんだからさ……。おもわずツッコミを入れたくなるような名言である。これは、西原の生まれ故郷である高知県のとある漁師町での不倫に対する価値観で、「貸し借りはお互いさま。ただ、ちゃんと洗って返してね」という意味であるらしい。あまりに寛容過ぎる気がするが、どこぞの港に女がいるか分からない漁師町らしい考え方だとも思う。

 西原も最近の不倫問題については「今の日本人の女の人はすごい厳しいなとおもいます。《中略》洗えばまだ使えるじゃん。もったいなくない?」と言及。なんだか、西原の風通しの良い物言いに触れていると、清潔を振りかざす風潮がバカらしく感じる。

「病気は作んなきゃ」Yes! 高須クリニック

 本書の中で特にど肝を抜かれた名言がこれ。「病気は作んなきゃ」。これは西原の現在のパートナーで高須クリニック院長の高須克弥の言葉である。高須は包茎産業を盛り上げるため、「包茎=悪」というイメージを植え付け、それはもう儲けに儲けまくったそう。

 確かにこの考え方には一理ある。恐怖を煽ると強い興味が掻き立てられる。「高須院長、酷い!」と考える人もいると思うが、試しによーくテレビコマーシャルを見てほしい。浴槽、トイレの周り、口の中、どこを見ても雑菌だらけだと語られていないか? 高須院長の発言なんて逆に潔ささえ感じられる。

 こんな風に、詐欺とはギリギリ言いきれない手口で踊らされていることなんてきっといくらでもある。おそらく世界は想像以上に善と悪がぐちゃぐちゃに入り乱れているのだろう。

 生きていればきっと星の数だけ不条理な事態に遭遇する。その時に大事なのは、自分の中で過剰に抱え込んだり、誰かに責任転嫁したりするのではなく、その場を凌いで生き抜くことだろう。そうすれば、いつか笑って教訓にできる日がくるはず。

 極端なモラルを振りかざし、無菌のような衛生状態を保つと不意のエラーに対応できなくなったりする。そんなことがないよう、西原を文字通り反面教師として迎え、本書を人生の教科書にしても良いのではないだろうか?

 ところで今回、掲載に堪えうる名言をチョイスしたのだが、実はNGコードを遥かに飛びこえる名言やエピソードが本書の大半を占めている。そのあたりもぜひ期待してほしい。世界には本当にいろんな人がいるんだなあ。つくづく、そう感じられるだろう。

文=大宮ガスト