大正時代の女性は夫をなんと呼んでいた? 『主婦の友』創刊100年から見る女性のライフスタイルの変化

暮らし

更新日:2017/3/13

 主婦という存在が誕生したのは、大正時代、ちょうど100年前ということをご存知だろうか。主婦とは主に家事を担う女性。明治以前の女性は、農家では農作業の担い手として。商家でも人工として女性も稼ぐ存在であった。

 そんな女性たちに変化が表れたのは大正時代。第一次世界大戦の軍需産業の発展によって、豊かさを得たこと。中間層が誕生したことである。そんな時代にひとつの雑誌が創刊された『主婦之友』である。

 それまで「主婦の」という言葉は世間では馴染みがなかった。そんな世間に「主婦」という言葉を冠した雑誌を立ち上げたことで、家事を担う女性たちに誇りが生まれたという。

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 100年前から現代まで。主婦の姿を網羅した書籍が登場した。『ニッポンの主婦 100年の食卓』(主婦の友社)は、創刊から現代までの『主婦の友』から、女性像の移り変わりや、時代の変化をコンパクトに知ることができる。残念ながら本誌は2008年に休刊し、年1度発行の『主婦の友Deluxe』として受け継がれている。

『ニッポンの主婦 100年の食卓』(主婦の友社)

■夫の呼び方に悩む?

『主婦の友』と言えば、料理に節約、健康、美容、ファッション、時事ネタまで。生活すべてを幅広く扱っている、まさに女性の生活全般を扱っている。

 だが、創刊当時はちょっと雰囲気が違う。創刊者であり、主婦の友社の初代社長である石川武美の方針から、かなりマジメな記事で構成されていたようだ。例えば当時の見出しをピックアップすると…。

●「夫の意気地なしを歎く妻へ」新渡戸稲造氏が寄稿
●「私の関心した独逸(ドイツ)の主婦気質(しゅふかたぎ)」貴族院議員 山脇玄が寄稿
●「何といって良人(おっと)を呼ぶか」

 妻とは、母とは、女性とはどうあるべきか。そんな良妻賢母について語った記事が多くあったそうだ。ちなみに、最後の良人(夫)の呼び方だが、今では一般的な「あなた」は、上流階級の呼び方だったらしい。人前では「主人」「たく」「苗字の呼び捨て」をしていたとか。


■カリスマ主婦、料理研究家の誕生

 創刊当時から誌面を賑わせていたのは、もちろんお料理の記事。大正時代から昭和中期にかけてまでは、西洋料理へのあこがれが散見される。昭和初期の記事には、ムニエルやグラタンのレシピが紹介されている。

 このようにレシピを紹介するとともに、登場するようになってきたのが、「料理研究家」という存在だろう。料理人やシェフというプロの経験がない。けれども料理に通じ、素人の主婦でも再現できるレシピを提案する人のことだ。料理教室を自宅で開いていた主婦が、スター主婦であった。今風にいえば、カリスマ主婦でありサロネーゼというところか。

 家庭の味を追求した、小林カツ代さん。西洋の味を伝えた城戸崎愛さん。そして平成にはいるとタレントのような容姿の藤井恵さん。また親子三代で料理研究家である、堀江泰子さん一家も紹介されている。かつて西洋料理にあこがれたように、カリスマのライフスタイルを読者はロールモデルにするようになってきたのだ。



■「シュフ」よ、自己評価をもっとあげよう!

 このほか、本書では、関東大震災を受けての記事。そして戦中戦後の暮らし方。高度経済成長期のワンランク上のライフスタイルなど。各時代とともに生活の変遷、そして女性の関心・生活の変化を紹介している。いわば女性を軸にした近代史なのだ。これ一冊で対象から現代までの大衆史が把握できるといっても過言ではない。

 けれどもこの本は、そんな「過去の総決算」的なところが魅力ではない。今を生きる、女性や家族を持つ人に手に取って欲しい。過去から通して家庭を見つめると、普遍的なことと、そうではないこと。家族にとって本当に大切なことが見えてくるからだ。

 それに近年は「主婦」という言葉が時代遅れのように扱われている。だが、「主婦」はそんなに、軽視される存在なのか。生活史研究家で作家の阿古真理さんも本書のなかでこう述べている。

仕事で何かを達成したり夢をかなえたりすることだけが「幸せ」ではない、と。「これおいしいね」と笑ったり、…
しんどい仕事終わらせて家に戻ったときに「お帰り」と言ってもらえたり、そんな小さな一瞬の中に「幸せ」はあるのだ、と。

 主婦、主夫、シュフ。専業か兼業か。呼び方や担う人、担い方はどうでも良い。けれども、料理を含む家事全般を切り盛りするには、だれかひとりリーダーがいる。どんな時代にも絶対に必要な存在だ。

 阿古さんは、続けてこうも述べている。

家庭でごはんを作る人の地位をもっと上げたい…
「主婦」である女性たちにも、もっと自己評価をあげて欲しい。
「私はすごいことをしてきたのだ」と

 料理はおいしくても、おいしくなくても、食べ物は食べ物。家事はどんなに丁寧にこなしてもお金にはならない。けれども、「気持ち良く」「幸せに」「充実した」そんな気持ちを生み出してくれるのは、主婦のがんばりがあるからだ。

 家事は仕事に比べて価値が低い? そんな基準を数値で計れるのだろうか。そんな料理・家事・母・妻の役割がこの本からは見えてくる。家庭を切り盛りするすべての女性のエールとなるであろう。

文=武藤徉子