「母が重たい」と悩む娘、「娘と連絡取れない」と嘆く母…。『母娘問題 – オトナの親子』

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更新日:2018/5/2

『母娘問題 – オトナの親子』(おぐら なおみ、読売新聞生活部/中央公論新社)

 親は子どもにお説教をするときには、よくよくその仕方を考えたほうが良い。でないと、意外なところで恥をかくことになる。私は若い頃、夏休みには小学生から高校生の子どもたちの団体キャンプを引率していたのだけれど、年上の子が下の子を叱る様子が、まんまその子の母親と同じ口調と論理なのを幾度となく目撃した。どうして分かるのかといえば、キャンプの前におこなう親子説明会で、母親が子どもを叱る様子を見かけているから。つまり、家庭の様子が外にダダ漏れになってしまうのだ。そして、その頃の子どもたちが最近SNSで結婚の報告をしており、つい自分まで親であるかのように感慨深く思っていたところ、『母娘問題 – オトナの親子』(おぐら なおみ、読売新聞生活部/中央公論新社)を手にした。

 本書は、読売新聞本紙に連載されていた「オトナの親子」から一部抜粋して収録されたもので、「成人した子どもと高齢の親をめぐる問題を考える企画」だという。「かつては嫁姑の確執」が家族関係の悩みだったのが、平均寿命が延びたこともあってか「親子でいる期間が長く」なり、「大人になっても親に干渉されて苦しむ」子どもと、「連絡が突然途絶え戸惑っている」親というように、これまでに無かった親子関係の問題は、想像以上に重い。おぐらなおみさんによる素朴なタッチの漫画は、あとがきに「雰囲気が重くなりがちなページを和らげてくれた」とあるけれど、素朴な絵柄がなおさら明暗を強調していて、「あるある」なエピソードにクスリと笑いつつも読後感は重かった。

 独裁者タイプの母親は「自分が正しいと思ったことしか認めない」から、娘が夜の8時に帰っただけで「こんな時間まで何やってたのっ!?」と怒り、仕事で残業になったからと答えれば、今度は「非常識な会社だこと!!」と矛先を変えて怒り続ける。そして、「言いたいことがあるなら はっきり言いなさい」とお説教を始めながら、ちょっとでも口を挟めば「くちごたえしなさんな」と何も言わせないでおいて、「どうしてちゃんと説明できないのかね!!」と話を締めてしまう。娘が「そういうふうに育てたのはお母さんでしょ!!」と心の中で叫ぶ姿は、男性でも思い当たるのではないか。

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 反対に、被害者タイプの母親はジワリジワリと責めてくる。子どもの頃から母に、父や姑の悪口を聞かされ続け、結婚して家を出て「やっと母親から離れられると思った」のに、手紙で「あなただけはわかってくれるはず」と書いてよこし、電話に出ると「あなたも結婚して私の気持ちがよくわかるでしょ?」と訊いてくる。気持ちのうえで親の存在を無視しようとしても、手紙をしたためる母の姿を思うと「罪悪感がどんどん湧きっぱなし」になってしまう。しかし同時に、「娘も自分と同じように不幸になってくれるはず」と母が思っているのではないかと考えて娘の背筋が凍る場面は、本当に寒気がした。

 この重さの正体は、やはり親子の絆だろう。いや、鎖と云うべきか、はたまた呪いか。文章のページでは、読者から寄せられた投書に、専門家のアドバイスが掲載されているのだけれど、89歳の母親が「あんたのためにまだ死ねない」と言うのに対して「私のためなら早く死んで」といった娘の悲痛な叫びや、「母のいない世界を生きてみたい」と悩む娘の声があり、まるで世間の母と娘が全て不幸なんじゃないかと錯覚してしまいそうになる。もちろんそんなわけは無く、本書の最終章「歩み寄りのカタチ」で、「親子関係の修復」についての投稿も紹介されている。

 あと、子どものいる人は、くれぐれも子どもの前で親の愚痴を漏らすことのないよう、ご注意あれ。その言葉は、自分に向けられる日が来るかもしれませんよ。

文=清水銀嶺