被災地・陸前高田市唯一の書店で、いま売れている本とは

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

名勝「高田松原」が海岸を縁取っていた陸前高田の中心部。大津波が伊東文具店を襲ったのは、創業50周年を祝って間もなくのことだった。7万本あった松原は1本のアカマツを残すのみとなり、伊東文具店は本店と「ブックランドいとう」の2店舗を流失。何より、社長夫婦と後継者であるその長男、そして従業員が犠牲になるという大きな悲しみを抱えた。

社長の遺志を継ぎ、社長の兄である会長とその次女・紗智子さんが立ち上がったのは4月。文房具主体の小さな仮設店舗を高台にオープンした。この時期、町はまだ泥と瓦礫だらけ。営業を再開した店自体がわずかだったため、実用品としての事務用品は重宝され、カラフルなファンシー文具は子どもたちの心を和らげた。 しかし、目標はあくまで書店の再開。模索の日々が続いたが、12月中旬、震災前にはJR大船渡線竹駒駅のあったあたりに、やはり仮設ながらも念願の書店を開店した。

「みなさんから『早く本屋さん始めてよ』と声をかけていただいていたので、やっと、という気持ちです。以前のお店と比べたら店舗面積は小さいですが、お休みしていたスタッフも戻ってきて、またみんなで仕事できることがすごく嬉しいです」と紗智子さん。

震災前も今も、市内唯一の書店。あの日以来、行き場を失っていた本好きたちが、足しげく通う場が復活したのだ。午前中に多いのは年配のお客さん。午後は小さな子どものいる家族連れ、夕方は目の前のバス停を利用する学生などで混み合う。

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「遠くなったこのお店まで、わざわざ足を運んでくださる方も多いんです。顔なじみのお客さんと再会を喜び合ったり、知り合いの近況を教え合ったり。中断していた定期購読を再開していただけるのもありがたい。あれこれとお話がはずみます」

開店直後に目立ったのは震災関連本、そして文庫本やコミックのまとめ買いだ。また、年配の人たちは例年なら主に新学期に動く国語辞典を買い求めていった。前者は、津波に流された愛読書を再び手元に置きたいという思いからだろう。後者は近況を知らせる手紙を書くため必要に迫られて、あるいは日常的な備品を再び取りそろえようという、ささやかな余裕の表れなのかもしれない。

このところ震災本の動きが落ち着くのと反比例して、売れ行きを伸ばしているものがある。宗教関連の書籍だ。特に『おとなの仏教入門』『心を癒やす布地蔵 手作り材料キット』などの軽めの読み物が際立っている。 「あれから1年ですよね。読むことで、自分の内面と向き合いたい。そして、気持ちを落ち着かせて現状を受け入れたい――。 高田の人たちの心は、そんな時期にあるのだと思います」

(ダ・ヴィンチ4月号 「東日本大震災から1年 いま、僕らにできること」より)