角田光代、自らを「短気で非寛容、陰湿」と語る

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

ナチュラルストレートの名ピッチャー“カクちゃん”こと角田光代さんと、キャッチャーでありながら名解説者でもある“ほむほむ”こと穂村弘さん。ともに大学で異性デビューという二人が、恋愛カースト制の中でもがき苦しんだ過去を振り返りつつ、昭和の自意識全開の経験も赤裸々に綴る恋愛考察エッセイ『異性』。二人の対談は数あれど、共著は初めてである。

advertisement

穂村 僕がいちばんショックを受けたのは、「女とつきあったことのない男」の章かな。

角田 わ、ごめんなさい。あれはパッとイメージが浮かぶままに書いただけで。

穂村 でしょうね。だからこそ、グサグサくる。冗談のつもりで失礼なことを言うとか、人の話には笑わなくて自分の話にだけ笑うとか、列挙された特徴にいくつか当てはまるうえ、「髪が黒くて多い(関係ないけど)」というのもあって、髪が黒くて多い僕としては、関係ないからこそ本質を突いてる気がして、ものすごい衝撃を受けた。

角田 いや、私は「女とつきあったことのない男」は、むやみに人を傷つけてくるタイプだと思っていて、ほんと、苦手っていうか怖いんですよ。でも、穂村さんは全然そういうタイプじゃない。私は穂村さんが本の中で振りまいているイメージに惑わされ、そういう人なのかなと思って初対面の場に行ったけど、すぐ「欺されてた」って思った(笑)。だからよもや穂村さんがそこに反応するとは思わなくて。

穂村 角田さんの柔らかい雰囲気とか表情を見ていると、ちょっとくらい失礼なことを言っても許してくれるんじゃないかって、錯覚してしまうのかなあ。

角田 顔は丸いですが、短気で非寛容。本当は「黒い会」代表ってくらい陰湿な人間です。

穂村 角田さんの話の中には、なんかものすごく生々しい空気感みたいなものがあるんだよなあ。例えばダイエットでマラソンを始めた初日、すれ違った中学生に「でけーケツ!」と言われたこととか、何回も読み返してこの感じはなんだろうって。このレベルで対応しなきゃダメだってすごく思った。

角田 私は穂村さんが男の「所有感覚」について書いた所とかも、すごく目からウロコだった。ほんと、長年謎だったんですよ。どうして男は野球とかサッカーとかスポーツの試合を見てて、監督になったり選手になったりするのかって。

穂村 男は言うよね。

角田 「なんで言えるの。自分ではやってないのに」って思う。

穂村  それ言われるの、すごく信じていた者に刺された感じ……。

角田 でも、穂村さんが男の所有感覚は一方的に発動して、サッカー日本代表の俺的ベストメンバーを考えたりするのが好きなのはそのバリエーションなんだと解題してくれて、「あ、こういう気持ちで言ってるんだ」って理解できた。

穂村 なんでそういう男達が現実社会の中では席を譲り合えるかも不気味だよね、女性には剥き出しになるのに(笑)。

角田 私、この辺りで恋愛を超えて、結構難しいことを考えてましたよ。母と息子、母と娘という関係性は実は全然違う。そこから成長していくと、性差も含めて、男と女にはもう決定的に相容れないものがあるんじゃないかとまで考えた。

取材・文=温水ゆかり
(ダ・ヴィンチ6月号「『異性』 角田光代穂村弘」より)