横山剣、「矢沢永吉を信用できる」と思った理由語る

芸能

更新日:2012/5/17

 音楽家を代表する、大人のカッコイイ男・横山剣さんに、その読書スタイルについて聞いた。

 
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  実は小説よりも奇なり”って言うでしょ。だから、僕はノンフィクションが好きなんです。扱う内容はどうあれ、文体にセンスのある書き手は「読ませる文」を書くから、どのページからでもいきなりトップギヤから入っていけるし、どこをどの角度から切り取るかで「なるほど、そう来たか!」と合点がゆくのが痛快です。
 例えば、特殊漫画家、根本敬さんの『因果鉄道の旅』という本。描かれている内容は不条理で不謹慎でどギツイかもしれない。でも、「低俗」とか「下品」という括りではこぼれ落ちてしまう「人間とその周辺」の真理というものが皮膚感覚で描かれている。初めて読んだ瞬間から「コレは絶対に信用できる本だ!」って、心が奮えましたね。  

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 そう、僕にとって重要なのは書き手のセンスなんですよ。たとえば、今回選んだのはどれも野郎臭の強烈な本ばかりだから、女性が敬遠する世界かもしれない。ヘタしたら友達にも共感してもらえないかもしれない。でも、自分と本との間に絶対的な信頼関係があれば、誰にどう思われようと関係ない。で、こうした読み物が、知らず知らずに心の栄養だとか、毒素だとか、スパイスになって、やがて音楽へと変換されるわけですね。   

 それと、書き手の感性がチャーミングであるかどうか、これも重要です。矢沢永吉さんの『成りあがり』を読んで「この人は信用できる!」って思ったのは、普通なら「わざわざそんなことを言わなきゃいいのに……」って思われるようなミもフタもない現実を平然と書いてしまう潔さですね。ヘタしたら、好感度が下がるかもなんて卑しさが微塵もない。それ故に矢沢さんが真摯に「音楽」に向き合ってる気持ちが真っ直ぐに伝わってきて愛おしくなる。
 山城新伍さんの『おこりんぼ さびしんぼ』もそう。若山富三郎さんと勝新太郎さんとの思い出を毒舌に暴露しながらも、お二人への愛がぎっしり詰まっているが故、非常にチャーミングに描かれているのが微笑ましい。特に勝新さんは、クレイジーケンバンドの楽曲の歌詞にも登場するほど僕のアイドルなわけですが、子どもの頃から何かとはみ出し者扱いされていた僕は、その存在感そのものに励まされたと言っても過言ではありません。『成りあがり』もそうだけど、本からはこうした親や学校では教わらない、“自分の身の振り方”をずいぶんと教えてもらった気がします。  

 やっぱりね、文字には言霊がある。何気なく開いたページの一節から溢れ出る、いくつもの言葉の“霊”たち。それらはね、一度心に刻まれるといつまでも自分の中で反芻するんです。自分を起爆させるためのトリガー、本を読むってそういうことかな。

取材・文=倉田モトキ
(ダ・ヴィンチ6月号 「男と、本。」より)