北方謙三に学ぶ、大人の男になるための「ワイルドな読書術」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

大人としての深みを増すためにはどうすればよいのか。さまざまな経験を経て得た深みは何ものにも代えがたいが、ひとつのツールとして本を手にとってみてはどうだろう。文芸界を代表する大人の男・北方謙三氏に読書術を伺った。

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読むことで男になれる小説や本なんてない。そりゃないよ、あればみんな読むだろう。要は読み方。女は流行を意識しがちだけど、男だったら流行とは関係なく、本の背からにじみ出るにおいを嗅ぎとって選ぶわけだ。そして自分の流儀を作れ。それが一番。だけど分からないなら、書店で本を10冊選んで買う。苦しかろうがなにしようが全部読む。自分なりの読書術があればいいけど、なければとりあえずなんでもいいから10冊完読しろということ。これは俺の経験からの読書方法。

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俺が本格的に読書をするようになったのは中学生のころで、河出書房のグリーン版『世界文学全集』を読んだっていうのが最初だね。全50冊くらいで、ミハエル・ショーロホフの「静かなドン」とか、パール・バックの「大地」なんて作品が入っていた。そういう全集を全部読むと、自分が求める本の傾向が少しずつ分かってきて、そこからだんだんと、てめぇの好みで本を買うようになっていったかな。

それ以前から本は読んでいたんだよ。家では本を読むことが美徳とされていたから。親父が貨物船の船長をしていて、一等航海士までは非常に忙しいんだけど、船長っていうのはそれに比べると時間があって、本ばかり読んでいるわけ。
親父と会えるのは船が横浜に帰港したときだけだから、そのたびに、そのころ住んでいた九州から出て行って。横浜のあちこちを連れ回されてね。忙しくなると本屋の児童書コーナーに放置される(笑)。「戻ってくるまでに、何冊か本を選んでおけ」と。

で、買ったものは必ず読まなきゃいけなかった。親父が感想を聞いてくるんだよ。そういう決まりがあったから、買った本はどんなにつまらなくても読んでいたね。なんでこんなものを選んじゃったんだろうって本でも。
ただ、本として出版されたものは、必ずどこかに面白い部分があるんだ。心が動かされるような部分。たくさん本を読んでいくうちに、自然とそういう部分を見つけながらの読書になるわけ。大体、10冊も読めば、本を読む目が出来てくるんだよ。10冊読み終わって、もう本はいやだって思ったら、それは読書に向いてないってこと。

とにかくなんでもいいから10冊買ってくる。それを全部読む。読むことによって、何か見えてくる。見えてきたときに、本当の読書のとば口に立つ。自分の指向性が分かってくる。そうすると流行に流されない。今の男は、話題のために流行った本を追いかけ読みして、なんだかんだといっているやつが多い。そういうつまらない読書をすると、いつまでたっても読書の意味は分からないよ。

取材・文=村上健司
(ダ・ヴィンチ6月号 「男と、本。」より)