まつもとあつしの電子書籍最前線Part5(前編)電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社

更新日:2013/5/27

電子書籍アプリ総ダウンロード数50万件突破!
電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社

「アドベンチャー」という会社名をご存じの方は少ないはずです。
しかし、電子書籍アプリを40作品以上配信し、それらの30%以上をAppStoreのブックカテゴリーのランキング1位獲得、9割を25位以内にランクインさせている注目の会社なのです。リリースしたアプリの総ダウンロード数はすでに43万件を超えていると言います。
「電子書籍を出してみたものの、売上げがほとんどない」という声は、筆者の周辺の出版関係者からも聞こえてきます。そんな中、驚異的とも言える成績を残しているこの会社はどんな戦略を採っているのでしょうか?
話を聞いてみると、作品の調達から流通・販売に至るプロセス、いわゆるバリューチェーンの各段階で様々な工夫を行っていることが見えてきました。今回は、そもそも電子出版とはどのような過程を経て行われているのかを振り返りながら、アドベンチャー社のユニークな戦略についてリポートしていきたいと思います。

上記の図、マイケル・ポーターが「競争優位の戦略」で説いた価値連鎖の考え方は書籍が電子化するプロセスを考える際にも役に立ちます。

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(右)西川剛司●にしかわたけし 1981年3月2日愛媛県生まれ。松山聖陵高等学校卒業。主に広告事業の仕事に携わり現在に至る。2010年に春木とともにiPhone事業部を立ち上げ、半年後電子書籍に注力。出版社へのライセンス営業、広報担当。「継続する事業」をモットーに現在も市場を模索し続けている。
(左)春木和也●はるきかずや 1983年新潟生まれ。大学卒業後、株式会社アドベンチャー入社。広告営業、モバイルWebメディア運営、モバイル公式サイトのWebメディアディレクターを務める。2010年西川とともにiPhone事業を立ち上げ。香港にある子会社で開発している電子書籍アプリ「@book viewer」を主軸とした事業を展開している。

ターゲットは「30歳前後のお調子者男性」

――企画を立ち上げて、最終的に本を電子書籍として販売するまでの流れにそって、お話をうかがっていければと思います。最初は、どのように作品を集めて来られているか?(バリューチェーンでいうところの、購買物流の段階)を中心に。

アプリも拝見させていただいたんですけれども。かなりユニークというか、尖ったところを突いていますよね。

営業部 西川剛司氏(以下西川):そうですね、はい。(笑)

――作品は、どういうふうに探し当てるんでしょうか?

西川:実は私たちは、元々は電子書籍をやっていなかったんです。

写真や、ナビ系、ガイドブックなんかのアプリを作っていたんですけども、全然売れなくて。悩んでいるときに、ちょうどダイヤモンドさんの『もしドラ』(岩崎夏海)であったり『適当日記』(高田純次)や、実業之日本社さんの『志高く 孫正義正伝』(井上篤夫)が売れていましたので、弊社も電子書籍に挑戦してみよう、ということになりました。

――そうすると結構最近になって電子書籍事業に参入されたのですね?

西川:そうなんです。

去年のちょうど8月から電子書籍を配信し始めたのですが、そこで一定の売上と利益がなければ、アプリ事業を撤退する覚悟で始めました。我々もテキストの電子書籍に賭けたのですが本当に崖っぷちのチャレンジだったんです。

そこで、既に契約をしていた二見書房さんの『世界一受けたい授業』(河合敦)という作品に注目しました。テレビでも人気を博していたのでこれはいけるのではないかと。

また『適当日記』の大ヒットを見て、やっぱり高田純次さんはスゴイということで、高田純次さんの作品を出版している青山出版社さんに純次さんの『裏切りの流儀』(高田純次×茂木健一郎)を扱わせて頂けるように営業をかけました。無事に扱わせていただけることになりました。
その結果、おかげ様で最低の目標地点をクリアし、なんとか事業部継続となりました(笑)。

――なるほど。

西川:以前だとエンタメとかタレント系、あるいは自己啓発系が、スマホ向けでは売れていました。私どももそういった作品を中心に扱うようになっていったわけです。

iPhoneユーザーで電子書籍をメインに購入する層は、ライトな層が比較的多いと感じていましたのでライトな層に向けて、アプリを選定する時には、アダルト系のものであったり、シンプルでカジュアルなものも選定してきました。私の中では「30歳前後のお調子者の男性」をメインのターゲットとしています。

まさに自分自身なのですが、本は好きだけど、実際には本をあまり読まない、日常生活が忙しく本を読む時間が無いといった層、話題の本を買ったことを自慢したり、話のネタにするような――でも最後まで読まないような、そんなライト層に合わせた書籍を集めています。