タッチ続編「MIX」連載開始記念・あだち充作品名シーンベスト5

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更新日:2013/8/2

日本中に知らない人はいない青春漫画の金字塔『タッチ』。その26年後を舞台とした『MIX』が、連載開始と同時に大反響ラコ。また『タッチ』の他にもあだち充のスポーツ恋愛漫画には名シーンがいっぱい! そこで今回は「あだち充原理主義者」として名高い、編集者の森山裕之氏に選んでもらったラコ!

森山裕之
1974年長野市生まれ。AB型。カルチャー雑誌『クイックジャパン』編集長時代に「あだち充特集」を企画・編集。TBSラジオ『文化系トークラジオ Life』にサブ・パーソナリティとして出演し、「あだち充原理主義者」として知られる。あだち充画業40周年記念出版作品『おあとがよろしいようで』(小学館)、どこから読んでもあだち充コミック「毎月あだち充」(以上、小学館)にてエッセーを執筆。

1位
主人公が、愛する人の結婚式で自分の思いを告白するシーン
みゆき (7) (小学館文庫)
みゆき (7) (小学館文庫)
  • 著者名:あだち 充
  • 発売元 : 小学館
  • 価格:610円

小学校低学年でこの作品に出会い、自分がほしかったものがこのなかに全部あると思いました。初めて接した「文学」です。このシーンは、自分の思いに気付いた主人公が、愛する人(血のつながらない妹)の結婚式でその思いを泣きながら告白するシーン。失いたくないと、その結婚を阻むのです。「大人がこんなことしてもいいんだ!」と思いました。自分の信念、大事な気持ちに基づいて行動したことならば、いつかは許しがもらえるんだということも知りました。人生本当にいろいろあるけれど、大事な選択を迫られたときには、こんなとき主人公ならどうする?と、ずっと心で問いかけてきたくらい自分の指針となっている作品です。

2位
完璧な最終話、壊れたカセットプレイヤーと誰にでもある青春
ラフ (7) (小学館文庫)
ラフ (7) (小学館文庫)
  • 著者名:あだち充
  • 発売元 : 小学館
  • 価格:610円

高校の水泳部を舞台とした、ひとりの女の子とふたりの男たちの青春ストーリー。その女の子がどちらを選ぶのか分からないまま話は進み、最終話で、水泳の勝負とともに決着がつきます。その答が、壊れたカセットプレイヤーを用いて読者に伝えられるカタルシスと、最後のコマに何気ない夏の学校の風景をおいた余韻の描写。誰にでも平等に訪れる青春が凝縮された、完璧な最終話と言っていいでしょう。あだち作品の素晴らしさは、メジャーな部分を保ちつつクオリティも衰えない、その芸術性を声高に語らないことだと思います。

3位
「アイスコーヒーの巻」での南の父と達也の会話のシーン
タッチ (14) (小学館文庫)
タッチ (14) (小学館文庫)
  • 著者名:あだち充
  • 発売元 : 小学館
  • 価格:627円

全国を熱狂に巻き込んだタッチ。そのなかで、この「アイスコーヒーの巻」は甲子園の戦いの前の静けさを描いたエピソードです。南の父が達也に南を好きなのかと問うが、何も答えない達也。あだち充は基本的に主人公の青春時代までを描きます。しかしこのシーンでは、青春が終わった後、その先の長い人生を想起させる。それを彼はこういう表現方法で伝えるのか、と驚きましたね。「みゆき」以来のあだち充ファンとしては、あまりの大ヒットにメジャーになってしまい寂しく感じていた時期もありましたが、その後読み返したとき、作品の完成度にそんな邪念は吹き飛んでしまいました。

4位
第169話「千川が勝つよ」
H2 (10) (少年サンデーコミックス〈ワイド版〉)
H2 (10) (少年サンデーコミックス〈ワイド版〉)
  • 著者名:あだち充
  • 発売元 : 小学館
  • 価格:710円

社会現象にまでなった「タッチ」の後で、同じく高校野球をテーマにした「H2」。この作品は、キャラクター、物語ともにあだち充の集大成と言えるでしょう。この「千川が勝つよ」という話の最後は、主人公である比呂の高校が勝ったことを球場の歓声で見せ、その同時刻に幼なじみのひかりがその知らせを恋人英雄に伝える、という場面を一切のセリフなく絵だけで見せました。歓声と静寂だけで夏の青春を描ききった映像的な3ページは、抑制された表現の到達点であると思いました。

5位
娘がじんべえに、お食事ご一緒にいかがですかと誘うシーン
じんべえ (小学館文庫 あ 1-1)
じんべえ (小学館文庫 あ 1-1)
  • 著者名:あだち充
  • 発売元 : 小学館
  • 価格:648円

じんべえの最終話、最後のシーンです。あだち充の作品は、主役の男女が結ばれる手前、大人になる手前といった青春時代を描くことが多いです。しかし『じんべえ』では、青春が終わった後の苦い人生を描いた。じんべえは遠回りして一緒になった妻を病気で失います。人生はうまくいくこともいかないこともある。しかし人生はつづく。今まで描かなかったその後の物語を読ませてくれた作品なのです。

【森山裕之総論】 今回は、主要作品が多く手に入れやすい文庫コミックになっているものから選びました。最終話や、最終話の前の話に名シーンは多いですね。私にとってあだち充作品とは、自分を作ってきたもの。タッチなど、世紀の大傑作を描いているのにそれを常に更新し続けている作家はそうはいません。新しく始まった「MIX」を読んでも、心がヒリヒリする感じがある。彼は売れすぎている作家ゆえに、作品も読まれずに過小評価されている部分が多い。ライトなタッチのために劇画とは真逆と評されることもあるけれど、実は梶原一騎と近しい部分があると思います。それは、「人間とは何か」「美とは何か」を描いているところ。人間とはどうあるべきかというのが彼の作品のテーマにはある。だから今でもあだち充マンガは、自分の芯、基礎であり続けています。

森山裕之さん、あだち充作品への熱い思いと感動的なシーンの選出をありがとラコ~! アニメや映画だけで知った気になっていた「タッチ」や「ラフ」なども、全巻あらためて読み通したくなったラコ~。他にもオススメの作品があったら @bookrako までよろしくラコ!