荒木飛呂彦が語る、JOJOのルーツと知られざる秘密

マンガ

更新日:2012/7/6

 『ダ・ヴィンチ』8月号では、今年25周年を迎えるマンガ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズを大特集。それにあわせ、表紙を飾るのはマンガ家・荒木飛呂彦と人気キャラクター「岸辺露伴」のツーショットだ。

advertisement

 表紙撮影はお気に入りの本を持つのがルールだが、荒木は今回、2冊を持参してくれた。ともに海外文学。「どちらも、僕にとってのサスペンスの教科書」と話す。

 1冊目は、イギリスの児童文学作家ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』。この本との出会いは、小学生までさかのぼる。
「ワクワク感とスリルと語り口が大好きで、マンガ家になる時は“こういうマンガを描きたい”と思ってましたね。とにかく読んでいる最中ドキドキしっぱなしで、“次どうなるんだよ!”っていう。推理小説的な謎も、キャラクターもいいし、ちょっとグロテスクな部分もあるのがいい。チョコレートに生き物の何かを混ぜている……とかね。デビュー前の自分にとっての目標でもあり、これが基本みたいな感じです」

 もう1冊は、『ミザリー』。こちらは「ジョジョ」の連載が始まった後に刊行された、ホラー小説の巨匠スティーヴン・キングの代表作だ。
「僕が思うサスペンスの、完璧な形ですね。好きだからというより、勉強のために今でも読み返しています。作家が熱狂的なファンに監禁され、小説を書かされるという話なんですけど、主人公がどんどんどんどん追いつめられていく過程が本当に面白い。こういうパターンの場合、“逃げればいいじゃん”って読者に思わせちゃダメなんですよね。そう思わせないための演出というか手続きが、絶妙なんですよ。しかも作家というのは、追いつめられてこそ傑作を書くものなのだってストーリーがねぇ、勇気が湧いてきます(笑)。不思議と、癒される感覚もあるんですよ。人間の真実はここにある、この残酷さこそ人間なんだって思うと、どこか救われるんです」

 同シリーズは、月刊誌『ウルトラジャンプ』2011年6月号より、第8部に突入した。荒き飛呂彦は今、「現在」の「日本」を描いている。第4部以来となる、新たな杜王町の物語『ジョジョリオン』だ。東日本大震災の直後に発表され、その現実感も、マンガの内部に取り入れられている。

 S市杜王町では震災後、「壁の目」と呼ばれる隆起物が出現した。その足下の地面に埋まっていた謎の青年を、大学生の広瀬康穂は救助する。その青年は記憶喪失で、不思議な能力を持っていた――。場所が日常的ならば、スタンドも日常的になる。第8部は、ホラーな色合いの中に、どこかほんわかムードが漂っている。
「今までのスタンドは“時を止める”とか“なんでも爆弾にする”とかすごいことになってたけど、今回は“お茶を沸かす”とかにしようかなって(笑)。髪の毛をカールするスタンドとか、そういうレベルのスタンドばっかり考えてます」

 だが、ほんわかムードの中に描かれるテーマは、これまでのJOJOの集大成かつど真ん中だ。すなわち、新たな「家系図」を巡る極上サスペンス。
「杜王町という“町”と、そこに住んでいる東方家という“家”の物語です。定助(主人公)の“自分は何者なのか?”という謎は、“何故そこに生きてるのか?”という謎に繋がっていく。その場所に自分が存在している意味、それを解き明かす話です。今回、参考にしているのは横溝正史なんですよ。『犬神家の一族』をスタンドでやろうかな、と」

 「3・11以後」の世界でJOJOを描き進めていく中で、自分がこれまで描いてきたこと、今まさに描こうとしていることの意味を、改めて実感することになったという荒木。これまでの作品のルーツやシリーズが向かう先を、本誌ではこの他にもたっぷり紹介している。

取材・文=吉田大助
(ダ・ヴィンチ8月号「『ジョジョの奇妙な冒険』連載25周年 JOJO=JAPAN」特集より)