『サマーウォーズ』の細田守が3年ぶりの新作公開にかける思い

更新日:2012/7/13

 『時をかける少女』『サマーウォーズ』と、国内はもちろん、今や世界で最も注目を集める細田守、3年ぶりの新作がついに公開される。人間とおおかみの顔を持つ“おおかみこども”というファンタジックなモチーフで描かれる、ちょっとだけ特別な母子の物語『おおかみこどもの雨と雪』は、子どもの生命力、子育ての苦労や喜び、人々との絆が、躍動感あふれる映像から描き出される。等身大の人々が地に足の着いた幸せのありかを指し示す、今だからこそ観たい作品だ。『ダ・ヴィンチ』8月号では、公開と原作小説の発売にあわせ、監督・細田守へのロングインタビューを掲載している。

 「それまで親になる人というのは、なるべくして親になるという誤解を、僕はしていたみたい(笑)。その場、その場で生きているような飲み友だちが、子どもが生まれた途端、急に親の顔になったんですよね。こいつ、覚悟を決めたんだな、かっこいいぞ!って(笑)。その横顔を見ながら、子育てする親がかっこよく見える映画をつくってみたいと思ったんです」

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 3年の歳月をかけてつくり出したのは、映画だけではなかった。もうひとつの表現形態は小説。アニメーション監督ならではの、独特の視点と手法が、新しい小説の形を実現した、細田守の作家デビュー作だ。

 初めて“原作小説を書いてみよう”と思ったのは、みずからのなかで密接な関係を持つ映像と文字で作品世界を広げてみたかったからだという。
「本作は映画と呼応させるための小説として書きました。映画を観た方が、スクリーンから持ち帰った想像の域を活字の力を使って広げるために。そして小説を読み、イメージを抱きながら、映画のシーンと出会うことで、映像に自分だけの何かを見つけていただくために」

 花たち親子が移り住む里山は、細田監督の故郷、北陸が舞台。冬が来る直前の冷たい空気のなかに嗅いだトラックの排気ガスの匂い、昨日まで見ていた世界が一瞬で変わる初雪の朝……そこで暮らし、肌で感じていた季節の移り変わりを、記憶のなかから取り出し、表現したイメージの量は、映画、小説、それぞれリッチだ。そして登場する人々の表情や言葉からは、自分がいる立ち位置によって、それぞれに違う感情のイメージが広がる。

 「おおかみこどもであることを秘密にしていた雪が、人生のステップを一段上る、あるシーンがあります。母である花の目線になれば“大人になったな”という感慨を、雪に思い入れてみると、”今までしんどかったんだよ”という、これまでのハードルの高さと、”ありがとう”という感情のイメージが広がると思う。その場面をはじめ、子どもも大人も成長するという、変化のダイナミズムのようなものを受け取ってもらえたら、うれしい」

 “花のように笑顔を絶やさない子に育つように”と、父から名付けられた花。本作には”笑う”という人としての態度もひとつのテーマとなって流れている。
「物語のアイデアを思いついた時、おおかみおとこを好きになり、一緒に暮らせる女性って、どんな人かと考えたんです。おそらく、ごく普通なんだけど、特徴的な何かを持つ人だろうなと。これからいろいろありそうなしんどいことを乗り越えていける人に必要なものとは?と考えていったら”そうか、笑っている人だ!”と。けれどそれは楽天的な笑いでなく、しんどいことを乗り越える、頑張るための笑い。だから花はつらい時にこそ笑っているんです。僕は花が心の底から笑っている姿を絶対に見たかった。このストーリーは、そこに辿り着くために書き続けていたような気がします」

取材・文=河村道子
(ダ・ヴィンチ8月号「切なくて抗えない親子の愛 『おおかみこどもの雨と雪』」より)