ホントに怖かった! 初版グリム童話

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 現在公開中の映画『スノーホワイト』や昨年公開された『赤ずきん』など、童話を大人向けにアレンジした映像作品が人気を集めている。その影響か、昨年末から『大人もぞっとする初版『グリム童話』―ずっと隠されてきた残酷、性愛、狂気、戦慄の世界』(由良弥生 三笠書房)の売れ行きが急上昇している。

この本では、グリム童話のなかから、残酷性やあけっぴろげな性愛描写に注目し、9作品をチョイス。『灰かぶり(シンデレラ)』や『赤ずきん』をはじめ、『ヘンゼルとグレーテル』『長靴をはいた猫』といった作品の初版原稿を訳したものが掲載している。

advertisement

両親になくなく捨てられた2人のきょうだいがお菓子の家のおばあさんをやっつけて、父と母のもとに戻る――これが『ヘンゼルとグレーテル』の一般的に知られたストーリー。一方、初版では、老婆によって悪臭漂う家畜小屋に監禁される描写などがリアリティ満載で綴られる。もっとも壮絶なのが、グレーテルが老婆をかまどに突き落とすシーン。どう考えても少女が老婆を押しこめることは難しい場面だが、初版では老婆が自分たちを捨てた母親の姿にダブる。なんと恨みのパワーでかまどに突き落としてしまうのだ。文句なく、大人もぞっとする描写だろう。

しかしながら、初版のグリム童話が残酷であることは有名な話。学校で周期的に都市伝説的に流行るものだからだ。それがいま注目を集めている理由は、映画化以外にも考えられる。現在ブームとなっているイヤミス(イヤな感じがするミステリー、後味が悪いミステリー)の文脈で捉えれば、グリム童話はまさしくイヤなミステリー作品の原点。“童話”と謳いながら、徹底した悪人たちの登場や、非情なまでに残虐の限りを尽くす仕打ちの数々は、イヤミスファンにはたまらないものだろう。

もともとグリム童話は、グリム兄弟がドイツの民間伝承を収集したものだといわれている。この恐ろしすぎる物語が、人々のあいだから生まれたものだということを意識すると、初版『グリム童話』は、もっと後味が悪くなるかもしれない。