『ジョジョ』のルーツは日本の近世絵画にあった

マンガ

更新日:2012/7/16

 そのビジュアルやセりフ回しから、欧米カルチャーの影響を指摘されることが多い『ジョジョの奇妙な冒険』。確かに、絵の密度が濃く、キュビズムやシュルレアリスムなどアートの影響も思わせる同作は、一見、西洋的な印象を受ける。しかし、マンガは紛れもなく日本的なるもの。実は日本の美術史には、荒木飛呂彦のようにエキセントリックな空想力で人を魅了する画家の系譜があるという。

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 「マンガ特有の誇張というものは、日本の絵巻物の頃からあって、今も変わらない傾向があります。その中でも『ジョジョの奇妙な冒険』は極点まで行った観があるね。最初はマッチョな肉体を描くアメコミの影響が強いように見えたけど、巻を追うごとに奇想になってきますね。空想力が豊かで、密度が凄い。この人(荒木)は面白いねえ」
と語るのは、日本美術史の重鎮である、元多摩美術大学学長の辻 惟雄氏。

 辻は近世絵画史において長らく「傍系」とされていた岩佐又兵衛、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)、曾我蕭白(そがしょうはく)といった奇矯な絵を描く画家たちを“奇想”という概念で紹介して世界的に評価を高め、日本の美術界にセンセーションを巻き起こした。

 「荒木飛呂彦さんの絵のバラエティの豊富さは北斎を思わせますが、それだけともちょっと違う。『ジョジョの奇妙な冒険』は形を極端に歪めたり、誇張したり、マニエリスムのようでもある。立体的で幻想的な描き方は、曾我蕭白に近いものを感じますね」

 奇想天外な『読本』を人々が求め、非現実をイメージ化する絵師が活躍した江戸時代。辻は「今の時代と似ている」と話す。
「日常茶飯の世界はどうも退屈でしょうがない。そういう人々に対して、奇想派の画家たちは現実とはまた別の世界を見せていたわけです。もし戦争中だったら、見る側もそんな心の余裕はないでしょう。一方で、表面的には平和で安定して見える時代であっても、人間の心の中はいつも何か得体の知れないものに脅かされている。そうした心理状態には、超現実的な表現が受け入れられやすい。そこに江戸時代の奇想派の絵と、現代のマンガが共鳴するところがあるんです」

「文献に残っている表向きの顔ではなくて、当時の人々の素顔や本音がわかるから絵は面白い。嘘偽りのない時代の本音を残してくれるんです。今支持されている『ジョジョの奇妙な冒険』を見ると、震災後のこうした状況の中で、若い人の生きる活力源となっていくもののように見えますね」

取材・文=大寺 明
(『ダ・ヴィンチ』8月号「『ジョジョの奇妙な冒険』連載25周年 JOJO=JAPAN」特集より)