怪談より恐い! 科学者の体を張った人体実験

科学

更新日:2012/8/3

 「あの病院では、夜な夜な人が集まって、秘密の人体実験が行われているらしい」――小・中学生のころ、必ずといっていいほど話題にのぼった“人体実験”の都市伝説に、背筋が寒くなった人も多いはず。が、しかし。都市伝説も霞むほどの、ほんとうに恐ろしい(そして、なぜか笑ってしまう)人体実験が世界では繰り広げられてきたというのだ。

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 そのことがよくわかるのが、『世にも奇妙な人体実験の歴史』(トレヴァー・ノートン/文藝春秋)。これは、マッド・サイエンティストたちによる知られざる人体実験の数々を取り上げた1冊。しかも、この本でピックアップされているのは、その多くが科学者や医者本人が自分で試してみるという「自己実験」ばかりだ。

 たとえば、千体以上の人体を解剖し、「人体の内部について自宅の間取りよりも詳しく知っていた」という医師ジョン・ハンターは、性病がはびこるロンドンで猛威を振るっていた淋病と梅毒の研究にいそしんでいた。彼の仮説は「淋病と梅毒とは単に進行段階が異なるだけで同一疾患であるに違いない」というもの。経過を知りたい彼は、なんと自分の性器に傷をつけ、淋病患者の膿を塗りつけたのだ。だが、不幸というか不注意というか、その淋病患者は梅毒にも感染していたことが判明! 当時の梅毒といえば、死にもいたる危険な病気。著者は、「理性的な人間もときにはまったく道理に合わないことをするものである」と、冷静すぎるツッコミを入れている。

 このほかにも、本書には勇敢すぎる研究者たちが数多く登場。自分で効果を試す過程で中毒者になっていった麻酔薬の開発者たちや、黄熱病患者の黒い嘔吐物を血管に注射し、さらには飲んでみたという医学生(しかも実験結果はほとんど注目されなかった)。犬で試したら死んでしまったのに、それでも自分の心臓にカテーテルを通した医者など……。彼らの奮闘があってこそ、今日のわたしたちの健康があることを痛感させられる。

 ちなみに、海洋生物学が専門である著者は、「古代ローマの潜水夫は口にオイルを含んで海に潜った」という記述を本で見つけ、自ら試したところ、油の飲み過ぎで1週間下痢に苦しんだと綴っている。科学者の旺盛すぎる好奇心とその歴史に、本書でぜひ触れてみてほしい。