「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」 【第16回】話題のLINEで電子書籍!? トークノベルの中の人に話を聞く

更新日:2013/8/14

電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答!
教えて、まつもと先生!

 

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かべ :まつもとさん、LINEやってますか? 超楽しいですよ。

まつもと :あー、話題のアレですね。そんなにヘビーにはつかっていないけど、興味深いプロダクトなので、中の人に詳しくお話しを聞きましたよ。

かべ :どんなお話しだったんですか?

まつもと :近々ascii.jpに掲載されるはずですが、スマホ時代にキャリアに縛られない通話やメッセージの機能を提供することができたことが、5000万人以上のユーザーを獲得できた理由かなと。

かべ :そっか、無料通話も魅力だし、絵文字でのチャットはかつての携帯メールの感覚に近いかも。

まつもと :でも、電子ナビとどんな関係が?

かべ :そうでした。編集長から「LINEで楽しめるという『トークノベル』について話を聞いてこい!」との指令を受けたんです。「携帯小説の未来像かも」って。

まつもと :なるほど、いわば電子書籍の一環というわけですね。ダ・ヴィンチはゲームの紹介にも力を入れているけど、サウンドノベルといった捉え方か。どんな風に遊べるんでしたっけ。

かべ :トークノベルはLINEから公式アカウント――たとえば「リフレイン」を追加すればはじめることができます。▼マークが出てきたところで何か入力すると先に進み、選択肢が出てきたらその先頭の文字を入力すればストーリーが分岐する、という仕組みですね。

LINEと相性のよい「トークノベル」

かべ :ということで、NHN Japanの山口剛志さんと大河原恵一さんにお話しをおうかがいします。では、まつもとさん、よろしくお願いします!

(左)山口 剛志 (Yamaguchi Goshi)
NHN Japan株式会社 ゲーム本部 執行役員
2006年、株式会社ゴンゾロッソ 執行役員に就任。その後、2010年2月にNHN Japan株式会社に入社、ゲームエンタープライズ事業本部長として従事。2012年1月、ハンゲーム内のコアコンテンツの自社運営および開発責任者として執行役員ゲームエンタープライズ事業グループ長に就任。現在に至る。

(右)大河原 恵一 (Okawara Keiichi)
NHN Japan 株式会社 GEゲーム開発チーム マネージャー
複数のゲーム開発会社にて多くのPC/コンシューマー/ネットワークゲームの開発に携わった後、2009年、株式会社ゴンゾロッソに入社、開発部長/執行役員に就任。その後、2011年11月にNHN Japan株式会社に入社。NHN Japan 株式会社 GEゲーム開発チーム マネージャー。現在に至る。
 

まつもと :(丸ぶり!)はい。そうしたら、まずはトークノベルを手がけることになったきっかけといったあたりから聞かせてください。

山口 :LINEがプラットフォームとなり、ゲームなんかもそこで遊べるようになる、と聞きLINEチームに企画提案したという流れになりますね。

大河原 :何かできないの? と山口から話があったとき、すでにLINEは約1000万人のユーザーを抱えていました。メッセージ交換を楽しんでいるこの人たちにゲームを楽しんでもらうにはどうすればいいか? と考えた結果、トークノベルを思いついたんです。

山口 :厳密に言えばハンゲームはPCベースの本格派ゲームを得意としてきました。我々の部署はPCベースのゲームを扱う部署なので、大河原にPCやタブレット向けのゲームの企画をオーダーしていたんですが、そうしたらPCやタブレットではなく、なぜかLINEでこんなのやりましょうよって企画が大河原から上がってきたんです。

まつもと :結果的に、グループの持つ強みが組み合わさった、ということですね。

大河原 :そうです。ただ、チャットを目的にしている人たちに単純にゲームやりませんかといっても、ほとんどのお客さんはやってくれないでしょう。だから、チャットとゲームの間に何かコンテンツを置こうと考えたんです。

山口 :LINEって相手がいないとできないじゃないですか。でも、世の中みんないつでも話し相手がいるわけじゃない。その隙間時間に楽しんでもらえるってところが、僕もこの企画がいいなと思ったポイントでもあります。

まつもと :なるほど。その結果がトークノベルだったというわけですね。

山口 :サウンドノベルとか電子書籍といったところから発想しているわけではないんですよね。すでにいらっしゃるユーザーがどうやったら楽しんでくれるのか、没入してくれるのかが重要なんです。

大河原 :話し相手がいないとユーザーはLINE以外のアプリを起動して、別のコトをはじめてしまう。それはもったいないなと。友だちにメッセージを投げて返事を待っている間も、LINEを起動したままで楽しんでもらうにはどうすればいいか? と考えたわけです。

まつもと :操作もほぼLINEそのままですね。

大河原 :そうですね。トークノベルをはじめるのも、他の公式アカウントと同じように、トークノベルをフレンド登録すればOKです。

大河原 LINEユーザーはチャットの操作は100%できる。その慣れた操作でできるゲームってなんだろうと考えてトークノベルに行き着いた。ゲームというか、LINEにチャット以外の1人でも楽しめる新しい遊びを提供したのがコアな部分ですね。ただ単に小説を読むだけじゃつまらないから、LINEだからこそできること――吹き出しで言葉が出てくるわけだから、誰かが語りかけてくれているかのような疑似感覚を演出しようと。

まつもと :あたかも本当にLINEの向こう側に登場人物が実在するかのような感覚ですね。しかし、これまでサウンドノベルは開発期間が数年かかることも珍しくなかったのですが。

山口 : 大河原と喫茶店でアイディアを練って、企画書自体は一晩で上げてもらって、1週間でそれが通り、リリースまで1ヶ月半で開発しました。全体でも3ヶ月ですね。

かべ :早い!

大河原 :僕が関わってきたゲームの中でも最も小さなタイトルかも知れません。でも、お客さんを楽しませるっていう意味では大きいも小さいも関係ないんですよ。

山口 :結局そこなんだよね。

ユーザー(読者)からの反応は?

まつもと :できるだけLINEを使う感覚そのままで楽しめるように、という遊び方を目指したということですが、実際ユーザー=読者からの反応はどうでしたか?

山口 :6月末の公開なので、まだそれほど多くの反応を見ている訳ではないのですが、内容よりも取り組みに対しての声が多かったですね。「こう来たか」と。プレイ状況のデータも見ていて、操作にまだ改善の余地があり――これは我々も想定していたことではあるのですが――そこで離脱されてしまう部分はあります。これはLINEチームとも連絡を取り合いながら早急に改善します。先に進むのに文字を入力しないといけないというのは、やはりユーザーにとっては面倒に感じてしまいますから。

大河原 :今回はまずは現状の仕組みの中で何ができるか、試してみたという段階ですね。

まつもと :ソーシャルゲームと同じように、読者がどこでつまずいて読むのを止めてしまうか、というのを提供側が把握できる、というのは1つ特徴ではありますよね。実際、その割合などはどうなっているのでしょうか?

大河原 :文字入力でしか先に進めないという部分で多くの方が離脱してしまっているので、それは何とかしないとですね。

山口 :その課題はありつつも、想定していたよりも多くの人が楽しんでくれているというのが正直なところです。

まつもと :文字数はどれくらいなんでしょう?

大河原 :純粋に文字だけ(スペースや改行等を含まず)で3万6000文字以上ですね。

かべ :お、本1冊くらいはあるんですね。

大河原 :分岐を間違えずにストレートに進んでも中編くらいのボリュームはあると思います。実は全体を読むのに40分くらいが適切なんじゃないかなと考えていたんです。ゲームなどもそうなんですが、1時間プレイするともうやりきった感が出てしまって再び遊んでくれなくなるので。そこを目指したんですが、作り込んだ結果、結局1時間半くらいはかかってしまうと思います(笑)。

まつもと :でも、最後まで続ける人が多いということは内容がおもしろいということの表れではありますね。

山口 :操作でつまずいてしまう人は多いけれど、そこさえクリアできれば、という風にも捉えています。一気にやる方がいる一方で、2-3週間やり続ける方もいるくらいですから。

まつもと :そういったデータが把握できるのも、従来の電子書籍との違いでもありますね。

山口 :視聴率に近いかも知れません。よく読まれる時間帯も分かるんですよ。帰宅後が多いのはもちろんなんですが、意外と明け方、5時から7時くらいも多い。

大河原 :主婦の方が相当数いらっしゃるので、そういった方が起きる前に読み進めている、ということなのかも知れないですね。

かべ :朝ドラ感覚なのかも。

大河原 :LINEの中でもメインターゲットは20代女性になる、というのは事前の調査で分かっていたのですが、普段からゲームをやっている方ではありません。そういう方にも楽しんでいただけるにはどうすれば良いか、と考えた結果がミステリーであり、主人公が女性であるという点ですね。