西村賢太の芥川賞はお墓参り効果!? “墓マイラー”が急増中

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

苦役列車』(新潮社)で芥川賞に輝き、その無頼ぶりで注目を集めている作家・西村賢太だが、意外に信心深い一面があるようだ。今、発売中の『小説現代』(講談社)9月号の連載エッセイで、芥川龍之介の墓に3度も墓参りしていたことを明かしているのだ。

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西村によると、1度目の墓参りははじめて芥川賞にノミネートされたときのこと。賞をとりたい西村は、芥川の墓への願掛けを思い立ち、東京・巣鴨にある慈眼寺におもむく。しかも、他の候補者が先にきてお供えをしていたらそれらを「蹴散らかし」てやろうと、悪辣なことまで考えていたらしい。もっとも、そのときの選考会では、西村の作品が「真っ先に議論の対象外」になって落選。西村は、「墓参りなど無意味なもの」と悟って、しばらく見向きもしなかった。

ところが、昨年、芥川賞を受賞するや態度を豹変させ、芥川の命日に「お礼参り」と称して墓参。今年も「何やらどうでも足を向けたい」と、三たび墓参りに出かけ、「このお礼参りは向後も私の夏の恒例行事になるであろう」と文章をしめくくっている。

らしいのか、らしくないのかよくわからない西村の墓参りだが、それはともかく、有名人の墓参りにハマる“墓マイラー”は近年、急増している。墓マイラーという言葉は、2010年版『現代用語の基礎知識』(自由国民社)にも「作家、芸術家など著名人のお墓を巡る人。掃苔家。」として新語登録され、2012年版ではなんと2ページも費やされるほどの注目度。いまやお墓は人気のパワースポットで、当然ながら関連本も数多く出版されている。

この“墓マイラー”なる言葉の生みの親である文芸研究家カジポン・マルコ・残月が執筆した『東京・鎌倉 有名人お墓お散歩ブック―誰もが知っている104人の墓碑完全ガイド』(大和書房)は、墓マイラー入門書ともいえる1冊。文士や芸術家のお墓情報はもちろん、周辺のスポットやお土産ガイドまでついているのがうれしい。さらに幅広い情報がほしい人には、『ぼちぼち歩こう 墓地散歩』(石井秀一/日刊スポーツ出版社)がオススメ。坂本龍馬から忌野清志郎まで、総勢197名におよぶ著名人の墓情報が満載だ。また、戦国歴女には『戦国武将お墓参り手帖』(武家カルチャー研究所/芸文社)が、京都観光に出かける予定がある人には『京都ぼちぼち墓めぐり』(アリカ/光村推古書院)といった本も。そして、「近所に墓がない!」とお嘆きの人は、お墓写真集『著名人のお墓を歩く―谷中、染井、雑司ヶ谷編』(あきやまみみこ/風塵社)を。これがあれば“お参り気分”が味わえるだろう。

偉人伝などを読んでも、いまいちリアリティのない歴史上の人物たち。そんな彼らの生きた証に触れて元気をもらうもよし。少し浮世離れした静かな時間が流れる墓地という異質空間の散歩を楽しむもよし。あるいは同じようで実は多様な墓デザインに感嘆するもよし。――興味を持った人は、この秋の行楽プランに「有名人のお墓参り」を加えてみてはいかがだろうか。