完結! 格闘マンガ『刃牙』は最強のギャグマンガだった

マンガ

更新日:2012/9/18

 『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載されていた『グラップラー刃牙』、『バキ』、『範馬刃牙』の3章からなる「刃牙」シリーズ(板垣恵介/秋田書店)。東京ドームの地下にある闘技場で、最年少チャンピオンとして君臨する範馬刃牙と、地上最強の生物と呼ばれる父・範馬勇次郎を中心に、さまざまな格闘家との出会い、闘いを描き、現代格闘マンガの金字塔として知られている作品だ。

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 そんな「刃牙」シリーズだが、実はいつのまにか格闘マンガから大きく離れ、完全にギャグマンガと化しているらしい。しかも、ファンの間では「そのへんのギャグマンガじゃたちうちできない超絶ギャグの連続で、腹がよじれる」と熱狂的な支持を得ているのだ。

 いったい、「刃牙」に何が起きていたのか。改めて読み返してみると、たしかにこの格闘マンガはとんでもないことになっていた。

 大きく変わったのは、シリーズ最終章『範馬刃牙』に突入してからだ。これまで凶暴な巨大猿や凶悪死刑囚など、さまざまな強敵と死闘を演じてきた主人公、範馬刃牙だが、この章の冒頭で闘っている相手はなんと“カマキリ”。いっておくが、対戦者のあだ名や名前ではない。刃牙はただの昆虫・カマキリと本気で格闘するのである。

 頭がくらくらするような展開だが、この傾向は、1億9000万年の眠りから覚めた原人・ピクルが登場したあたりから、さらにエスカレートする。

 たとえば、中国武術を体得したキャラ烈海王(ちなみに、このキャラは「刃牙」シリーズ屈指の萌えキャラである)がピクルと対戦するシーンがあるのだが、烈海王は培ってきた武術がピクルにまったく効かず、万策尽き果てた状態に陥る。いったい次にどんな新しい技をくりだすのか、と、ワクワクしながらページをめくると、なんと、目に飛び込んできたのは「グルグルパンチ」! 武術の達人である烈海王が、まるで子どものケンカのように腕をグルグル回しながらピクルに突進していったのだ。しかも、泣きながらである。「ウワアアアア」と泣き叫ぶ烈海王に驚き、思わず「ウワアアアア」と叫んでしまった読者も少なくなかったはずだ。

 ジャック・ハンマーがピクルと対戦したシーンもすごい。このジャック・ハンマー、得意技が「噛みつき」というラフファイトを地でいくようなキャラクターで、ピクル相手にも噛みつきを仕掛けるのだが、ピクルも黙ってはいない。生まれは原始時代の原始人なだけあり、噛みつきはお手のもの。ジャック・ハンマーと同じく、口を広げて突進していく。そしてなんと次の瞬間、ディープキスをする両者。いや、正確には、お互いがお互いの口に噛みついているだけなのだが、もうその様が、ワイルドなディープキスにしか見えないのだ。折しも、この回が掲載された『週刊少年チャンピオン』の発売日はクリスマス。いちゃつく恋人たちに対する、作者・板垣恵介の強烈なメッセージか、それともプレゼントか。どちらにせよ、その日に『週刊少年チャンピオン』を読んだ人々に大きなトラウマを与えたことは間違いない。

 「ピクル」編が終わってからも勢いは止まらない。とんがっているからという理由で雷に優先的に打たれたり、強烈な痛みに対しては強烈な“やせ我慢”で対抗したり、刃牙とのじゃんけんでチョキで負けたのに、握力でグーをパーに変え「憶えておけ この世には石をも断ち切る鋏があるということをッッ」とのたまったりとやりたい放題の範馬勇次郎。一方、刃牙はゴキブリを師匠と呼び礼儀正しく接している……と、とにかく抱腹絶倒シーンの連続なのだ。これでは、ファンの間から「格闘マンガではなく、ギャグマンガだっ!」という声が上がるのは当然だろう。

 しかも、この『範馬刃牙』は8月16日に発売された号で最終回を迎えたのだが、最後まで超絶ギャグの乱射はおさまることはなかった。最終回の目前には、範馬勇次郎が「エアみそ汁」なるものをつくりはじめ……いや、もうこれ以上は言うまい。「エアみそ汁」とはいったいなんなのか、そこからどういう結末を迎えるのか、その詳細についてはぜひ、10月5日に発売される『範馬刃牙』の最終巻で確認してほしい。そして、この最終巻の発売を機に、地上最強の格闘マンガを、地上最強のギャグマンガとして一から読み返してみてはどうだろうか。唖然と呆然、そして腹がよじれること請け合いである。