腐女子はアメコミに萌えられるのか? アメコミ官能BLが登場

BL

更新日:2012/9/24

 アメコミの2大出版社と呼ばれるほど有名で、現在映画公開中の『アベンジャーズ』などを手がけるマーベル社と『スーパーマン』や『バットマン』を代表作にもつDCコミック。2社に加えダークホースでも数多くの表紙イラストなどを手がける注目の作家・咎井淳(ジョー・チェン)。そのジョー・チェンが、日本で官能BLマンガを出版した。

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 アメコミと聞くと、原色のようなはっきりとした色のフルカラーに、太い輪郭線で描かれた筋肉ムキムキの男女の絵を思い浮かべる人が多いだろう。そんなイラストで官能BLなんて描かれても、ちっとも萌えない。それに、アメリカのオーバーリアクションも加わって、Hシーンで「OH!」などと喘ぎ出したら……。想像するだけで萎えてしまいそうだが、そんな不安は全くの杞憂だった。
 
 9月10日に発売された『In These Words』(リブレ出版)は、精神科医の主人公・浅野克哉が、12人もの人間を殺した連続殺人犯・篠原をプロファイリングすることになる。精神科医×連続殺人犯のカップリングというだけでも十分ハードだが、しかも、その間、顔も見えない男に監禁され「愛してる」と囁かれながら犯されるという悪夢を見続けるといったかなりダークな内容。毎晩、椅子に手錠やベルトで拘束されたり、風呂場で背中を切りつけられたりしながら犯されるなんて気が狂いそうな話だ。普通のBLなら、相手を痛めつけながらもお互いに愛し合っていたり、相手を思いやっていたりするのだが、この作品はただただ一方的に相手に執着しているだけ。さらにその執着は日本の作家が描くような生易しいものではなく、相手に身の危険さえも感じさせる狂気。そこに甘いファンタジー要素なんて一切ないのだ。

 また、作者の咎井淳がアメコミで活躍する作家ということで、その描写や描き方にもアメコミ的な要素が垣間見られる。主にフルカラーで陰影のはっきりしたアメコミでは、トーンを使って影を表現することはない。その代わりに、ペンの塗りで影をつけるのだ。この作品も薄墨のようなものを使って影を表現しているので、特に顔や身体の影、服のしわなどは、トーンよりも細かく表現でき、彼女の美麗なイラストと相まってより肉感的で生々しく仕上がっている。肉体の描写がしっかりしているので、セックスシーンはよりエロティックで死体の描写もリアルだ。また、ナイフで切りつけられ恐怖に怯える表情や篠原に腕をつかまれるシーンなど、セリフやオノマトペを使わずにコマ送りで描かれている部分もアメコミ的ですごく迫力がある。

 篠原の大好きな血の香りさえ漂ってくるような、濃厚なセックスシーン。その血を舐めて愉悦に浸る篠原は、まさしく異常。しかし思わず篠原に感情移入し、人が恐怖に怯え、泣き叫ぶ顔と声に魅入られてしまうかもしれない。そう思わせるほどしつこく舐めまわすかのように、犯される浅野の表情をひとつひとつ描いているのだ。

 物語にどんどん引き込まれるので1巻を読み終わった頃にはまるでドラマや映画を見終わったかのような疲労感に包まれ、すぐに続きが見たくなる。顔の見えない男の正体が篠原だということはわかったようだが、それが過去のことなのか2人の関係はなんだったのか……? まだまだ謎ばかりが残る。続きが気になる作品だ。