ドラマ&映画で一人二役 堺雅人が語る『大奥』の魅力

芸能

更新日:2012/10/7

 10月の連続ドラマ化、そして12月の映画公開が決定している『大奥』。原作は、史実に忠実に、しかし男女逆転という独自の解釈で運命に翻弄される男女を描いた、よしながふみの傑作コミックだ。

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 ドラマ版で、慈悲深い僧侶から還俗し家光の側室となった「有功」を、映画版で大奥での最高権力を手に入れようとする野心家「右衛門佐」の二役を演じるのは俳優・堺雅人。『ダ・ヴィンチ』11月号では、これからドラマ入りをするという堺雅人にインタビューを行っている。

「撮影中は、女性スタッフからの“ハンサムチェック”がすごいんですよ」
そう言って笑う堺雅人さん。作品によって全く違う表情を見せる演技派の彼だが、今回はきりりとした美しさが際立つ表情が印象的だ。 
「監督からも表情のダメ出しが非常に多いです。口元に力が入りすぎとか、もっと眉間にしわを寄せて、とか(笑)」

 原作は出演が決定する前にすでに読んでいたという。
「これはすごい! と思いました。男女逆転という嘘をひとつついているだけで、江戸時代の歴史も全部説明できていて、物語が現代を映す鏡にもなっていますよね。昨今の草食系男子とか肉食系女子とかいった言葉でジェンダーをわざとあいまいにしている世の中を反映している気がして。
 よしながさんは、現代日本が誇る作家ですよ。同時代に生まれてよかった」

 ドラマから映画へと向かう、一連の壮大な物語を堺さんはこう表現した。
「“呪い”をかけ、その呪いを解く物語だと思います。有功が綱吉を生み出すまでにかけた呪いを、有功に瓜二つの右衛門佐が最後の最後で解き放つ。
 綱吉は、3人が総がかりで生み出した、愛憎にまみれた悲しいモンスターだと思います。映画の撮影が先だったので、もう右衛門佐が呪いは解いてしまった。これからドラマで有功を演じるわけで、つまり呪いをかける作業が待っているんですが……映画の菅野美穂さんの綱吉が本当にすばらしかったので、あの綱吉をこれから生み出すのは大変ですよ。やっかいなくらいすごいものが先にできちゃったなあと思いますが、しっかり綱吉にバトンを渡せるようにがんばります」

 取材中、人気原作を演じることへのプレッシャーの言葉を何度か口にした堺さん。これまでもマンガでは『ハチミツとクローバー』、小説では『ゴールデンスランバー』など、原作ものの映像作品に出演し、監督たちと話をするなかでわかってきたことがあるという。
「原作が好きで、かつ今いる自分の場所に誇りを持つことが大事だなと。ただ原作が大好きです、というだけではだめなんですよね。周りにいる仲間、自分の役、それにテレビや映画というメディアが持っている可能性――つまり今自分がいる場所を信頼できない人には、いい原作ものは作れない。
『大奥』は危険物なんですよ。原作が本当におもしろいから。作家さんやマンガ家さんに話を聞くと、物語を生み出す苦労とか愛がどれだけ深いものかが本当に伝わってくる。だから、マンガだったら、コマ割りをそのままカット割りにするくらいじゃないとだめなんじゃないかと、以前は思ってたんです。でも今は、逆にそれをやってはダメだという気がしています。原作を踏みにじるくらいの、“僕が演(や)るのだ”という強い思いでやらないと、原作に太刀打ちできないし、そこに生命は生まれない。よしながさんの『大奥』はそれくらい力のある作品だと思います」

取材・文=門倉紫麻
ダ・ヴィンチ11月号特集「よしながふみ 愛がなければ…」より)