なぜNHKの「朝ドラ」だけが好調なのか?

テレビ

更新日:2017/3/17

  テレビ界全体が低視聴率にあえいでいるが、なかでも凋落が激しいのがドラマのジャンル。そんな厳しいテレビドラマのなかで好調なのがNHK連続テレビ小説、通称「朝ドラ」枠だ。今年4月に終了した『カーネーション』は平均視聴率19.6%で同枠過去8年間の記録を破ったが、先日終了した『梅ちゃん先生』はそれを上回る20.7%を記録。一時は「マンネリの極み」「もう古いのでは?」と呼ばれた朝ドラ。一体、どのように起死回生を果たしたのだろうか。

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 朝ドラが復調したきっかけになったのは、2010年に放送された『ゲゲゲの女房』。朝ドラの歴史と魅力をひも解いた『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(田幸和歌子/太田出版)によると、視聴率の低迷がつづくなか、『つばさ』でドラマの舞台が47都道府県を制覇したこともあり、「もう終わってもいいのでは?」という声もあがっていたという。そこで、『ゲゲゲの女房』よりスタート時間を8時15分から8時に繰り上げるという大胆な変革に打って出た。しかし、初回視聴率は14.8%と過去最低の結果に。

 ご存じの通り、その後は“ゲゲゲの~”が流行語に選ばれ、最終回には23.6%という近年稀に見る数字を残すわけだが、本書はその理由を「非・朝ドラヒロイン」にあったと分析。『ゲゲゲの女房』の場合、主人公の布美枝は自分自身が輝く「王道ヒロイン」ではなく、「すべてを受け止め、肯定してくれるヒロイン」。夢や希望を押し付けることもなく、いつもニコニコと笑う松下奈緒に癒された人も多かった。また、『おしん』や『はね駒』『青春家族』『私の青空』『ちりとてちん』『カーネーション』といった社会現象やブームとなった朝ドラ作品は、いずれも“非・王道ヒロイン”だったことも本書では指摘している。

 とくに「朝ドラ史上最高傑作」との声も高い『カーネーション』は、非・朝ドラヒロインであったことに加え、ヒロインが精神を病んだ幼なじみを励まそうとして逆に自殺未遂に追い込んでしまっても「お約束の「改心」や「和解」もない」ままに進んだり、掟破りともいえるヒロインの不倫が描かれたり、“正しいだけじゃない”姿も描写。さらに、台詞による説明を排したつくり方も、朝ドラとしては大きな挑戦だった。一方、続いて放送された『梅ちゃん先生』は、朝の忙しい時間に「耳で聴いてわかる」という朝ドラ成立時に生まれた“伝統”に乗っ取った王道作品。この作品による緩急も、視聴者には新鮮に感じられたのかもしれない。

 そういう意味では、現在放送中の『純と愛』は、ホテルの再建を夢見るヒロインという王道的な作品だが……。しかし、『家政婦のミタ』の脚本家・遊川和彦が手がけていることもあり、まさかの大どんでん返し……もあるかもしれない。しかも、気は早いが来年春の朝ドラは宮藤官九郎による“美人すぎる海女さん”がヒロイン(!)の『あまちゃん』が控えているから、まだまだ朝ドラから目が離せなさそうだ。

 ちなみに、10月31日には『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)が発売される予定。放送開始から約1年を経てもなお“語りたい!”欲を掻き立てられる『カーネーション』のような作品が、今後も登場することを祈りたい。