2000億円を回収! 督促OLの壮絶すぎる日常

業界・企業

更新日:2012/10/16

 仕事というのは、なにかしらストレスがつきまとうもの。ノルマに成績、スキルアップと、業種に限らずのしかかる重圧はそれぞれにハードだ。ときには「私の仕事って、世界でいちばん最悪なのでは」なんて考えてしまいそうになる夜もあるはずだ。

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 そんな人にオススメしたいのが、9月22日に発売された『督促OL修行日記』(榎本まみ/文藝春秋)。入社早々、クレジットカードのキャッシングの回収を行う「要するに“借金の取り立て”をしているコールセンター」に配属されてしまった著者の、過酷すぎる日常が綴られた本だ。

 まず、なにが過酷かといえば、督促の電話をかけるたびに浴びせかけられる罵声の数々。「うるせぇんだよ馬鹿野郎! ちゃんと支払うっつってんだろ!」「テメェ! 今度電話してきたらぶっ殺す!!」とキレられるのは日常茶飯事。なかには「今から高速飛ばして行くから待ってろよ!」と言う人や、社屋の前にガソリンを撒く人(!)も。大学を卒業したての著者は、当然のことながら肝を冷やすことの連続だったようだ。しかも、督促電話のノルマは1日60本。電話業務が終わる21時以降は、電話に出てくれない顧客に手書きの督促状を綴る「手紙の時間」。……他部署の同期は18時に退社するのに、彼女の配属先は終電まで仕事が終わらない“ブラック部署”だったのだ。

 当然のことながら、ストレスは体調に表れる。原因不明の高熱に悩まされ、カウンセリングに赴くもビジネスライクな対応で終了し、彼氏ともフェードアウト。さらには化粧や洗濯する余裕まで奪われ、いつしかスッピン&紙パンツ生活に。その後、クレジットカードを督促する部署へ異動するも、仕事は変わらずつらいまま。

 それでも、著者は負けなかった。心がボロボロになって次々と辞めていく同僚たちを前に、「私が督促できるようになれば、お客さまに言い負かされないようになって、お金をちゃんと回収できるようになれば、そのノウハウはきっと使える」と、“督促の研究”を開始。そして、ついには300人のオペレーターを指示して年間2000億円の債権を回収するまでに至るのだ。

 罵倒されれば誰でも傷つく。とくに自分の感情を抑えることでお金を得る「感情労働」は、心を病んでしまうケースが多い。著者はそんななか、「私は謝罪するプロだ」と言い聞かせ、理不尽な罵りにも「これで食べてるんだ!」というプロ意識で心を守ったという。

 どんなにつらくても、現状を変える糸口はどこかにあるはず――それを信じて試行錯誤する著者の姿は、いま仕事でたいへんな思いをしている読者に、きっと力強くうつるに違いない。「つらいけど、仕事をもう少しがんばってみたい」と思っている人には、ぜひ読んでみてほしい1冊だ。