第30回『遅読のススメ。前編』 土屋礼央

更新日:2013/8/6

紙のしおりより、しおり紐の方が好き
CDの様に二冊買いたくなる仕様だって有り

『遅読のススメ。前編』

読書の季節になってきました。

僕も気づけば何冊も出版させて頂いております。
そっちサイドからも是非、
読書の秋を堪能して頂きたい。
一人でも多くの人に読書を、
一冊でも多く読書を。
是非是非、宜しくお願い致します。

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と、
僕が言わなくても
本は沢山読まれています。

街にCD屋さんは減りましたが
本屋さんはまだまだ頑張っています。

デジタルの波が押し寄せてはいますが
まだまだ本は紙で、手に取って読むのが気持ち良い。

読書好きの人のなかには、一日で何冊も読む人もいるらしい。
速読術ってやつだろうか。
何行かまとめて読んでみたり
読書経験からくる読みで
景観描写を省き読みをしたりするらしい。
そうやって、より多くの名作を楽しんでいるらしいのです。

一日に何冊も読む……。


私は寂しい。

執筆するサイドになってからというもの
もの凄いスピードで消費されていく作品に心を痛めています……。

「うぉお、このマグロ、チョーうめー!みんな喰え、喰えー!」

いや、ちょっとそのマグロは大変な思いをしてとった
大間のマグロなんですけど……。
もうちょっと味わって……。

「なんかこのスマホ高くない? あっちじゃタダで配ってたぜ!」

いや、その充電の持ちでこの軽さにした経緯と努力をご存知ですか?

我々が本当に長い時間かけて作り上げた本を
数時間で読み上げてしまうスピードに切なくなる。

ものの数時間で読み終える。
速読な人達……。

「あぁ、楽しかった。さて次はっと……」


なんてこった。

自分の作品は自分の息子に例える事もしばしば。
是非、あなたも本を擬人化して向き合って頂きたい。

上記の
「あぁ、楽しかった。さて次はっと……」

を恋人に置き換えて見て下さい。


まぁ、いやらしい。

作者の意図を全て汲み取って欲しいとは言いません。
でも
作者やスタッフが
アイディアを練り
取材をし、目を擦りながら執筆し
タイトルは?紙質は?挿絵は?表紙のデザインは?
やいのやいのと話し合い、決めこみ
印刷をし、営業の方が店舗に頭を下げ、ようやく店舗に届き、
将来を夢見るアルバイト君が
その本を汚すまいとカバーをかけた、
その本を

数時間で読み切る。


なんて勿体ないんだ。

ワインは先ずは見て楽しみ
香りで楽しみ舌で楽しみ
喉で味わう。

本だって、じっくり楽しみたい。

本屋さんで書籍を手に取る……。


さて、私はなぜ今、
この本を手に取ったのだろうか?

先ずはそこから本の楽しみは始まります。

そして、この分厚さ、装丁、作者……。
幾らかな?1600円?

勝負!

本を裏返し、値段を確認。

「1800円?意外と取るねぇ」

書籍の値段と自分の推理をすりあわせる儀式。

「今日は君との運命では無かったようだ、また日を改める事にするよ」

その日は本屋でその本を手には取らない。

家に帰り、ネットでその本のレビューを読む。

なるほど、そういう感想が出る作品なのか。

その夜はその作品がどういうストーリーなのかを思い描きながら眠りにつく。
まだ自分のものではない片思いの恋人を想う様に。

数日後、フラッと入った本屋さんで再びその作品が目に飛び込んで来る。


「出会いますな」

二度目は運命のしるし。

勿論背表紙で値段を確認する事なく
その作品をレジに連れて行き
1800円を払い、自分の家族として迎え入れる。

「これから長い付き合いになると思いますが
どうぞよろしく」


本との付き合いとはこういう事。

もうお分かりですね。


今回のレオナルホド・
ダ・ヴィンチは”遅読のススメ”です。

別に速読が駄目だとは思っていません。
ただ、自分が執筆をする様になって、
より本に込められている気持ちを理解したいと思う様になりました。
その気持ちで本を読むと、新しい発見だらけでした。
一度目と二度目の読破後では感想が違ったりします。
そんな僕の遅読、
あなたの大好きなその本をより楽しむ為にお教えします。

是非是非、一度わたくしの遅読を参考にして頂き、実践してみて頂きたい。
もしかしたら、本から作者や登場人物が飛び出て、あなたに話しかけて来るかも知れません。
さらには、作者が描かなかったアナザーストリーを発見し、
誰よりもその作品を楽しめちゃうかも知れません。

ただ、先に言っておきます。
この遅読の方法


かなり時間がかかります。

ちなみに僕は

リリーさんの『東京タワー』を読破するのに3ヶ月半かかりました。

僕は昔から
一分一秒をいかに大切に意識をして生きるかを
強く心がけています。

勿論、読書も同じ。
一ページ、一単語、一文字を
大切に意識して読みます。

というか、その方法でしか読めません。

昔昔、山の奥におじいちゃんとおばあちゃんが住んでいました。

昔昔って何時代?
山ってどこの山?
おじいちゃんとおばあちゃんが二人だけって事は
子どもはいつ自立し旅立ったのだろうか?


どうしても興味が沸いてしまうのです。

文庫本というのは
絵本や漫画と違い、書かれた言葉から、
その言葉の正体を想像し、頭の中に思い描きます。
選択の幅が無限なのです。
その答えが解るのは物語の最後の方だったりします。
最初の一行では解らない場合も多い。

石橋を叩いて壊すタイプの僕は

物語の最初の一行で想像出来ない事があれば、
もう、気になって先に進めません。

想像出来るまで、何度も何度も一行目を繰り返し読む。


「ふー、今日はここまで」

一行目で一日が終わる事もあります。

「遅読、マジで面倒くさそうなんですけど」

そんな声が遅読しなくても、理解出来ます。

ただこの方法、
一冊で本当に色んな事を学び、
自分の人間力の増加に繋がります。

ぶっちゃけ、僕は『東京タワー』の一冊を読んで、それだけをヒントに
『なんだ礼央化1』に収録されている「なんだ礼央語」を書きました。

昔から、一つのLIVEからヒントを得て、自分のLIVEの参考にしたり
一つの映画から、アイディアを5パターン考案したりします。

「普通に楽しんでいては、普通だ」

そんな気持ちから生まれた遅読。

この遅読の話をダ・ヴィンチ編集部に伝える。

みな読書の達人達です。
僕のその読み方に驚愕している。

そして、ここからがダ・ヴィンチ編集部の変わっている所。
馬鹿にされるかなと思ったのですが

「その遅読、とても興味あります!」

「是非、遅読をレクチャーして頂きたいです!私のオススメの本達で!」

良いですが、めちゃくちゃ時間がかかりますよ。
ヘタしたら、半年くらい……。

では短編集ならどうでしょうか?
ちょっとオススメの短編集を集めてみたのですが……。

『歪笑小説』 東野圭吾
『泳ぐのに、安全も適切もありません』江國香織
『鉄道員』浅田次郎
『O・ヘンリ短編集』O・ヘンリ
『Story Seller』伊坂幸太郎他 新潮社ストーリーセラー編集部/編
 

なるほど。
あまりにも遅読なので、生涯累計読書数が圧倒的に少ない僕。
全部読んだ事が無い。
有名な作家さんばかりだ。
興味はとてもある。

「あのぉ、40pぐらいのお話が限界な気がするのですが……」

「大丈夫です、全部それくらいです」

了解しました。

という事で
後編で
上記の5作品を遅読し、徹底レポートしてみます。

土屋礼央、初の東野圭吾、江國香織、浅田次郎、O・ヘンリ、伊坂幸太郎……。

著書を6冊も出している人間とは思えない発言です。
思い返せば、リリー・フランキーと星新一しか読んだ事ないかもです。

「本当ですか?」

「本とです。本とに本と」

後編までにあなたも是非読書をしてお待ち下さい。

ではでは土屋礼央でした。


さてさて、どれから読もうかしら……