なぜ少女たちは「陰陽師」に萌えるのか?

マンガ

更新日:2012/11/12

 コバルト文庫やX文庫ホワイトハート、角川ビーンズ文庫などの少女向けラノベレーベルでは、和風ファンタジーが一大ジャンルとなっている。なかでも、大きな人気を集めているのが、陰陽師だ。『少年陰陽師』(結城光流:著、あさぎ 桜:イラスト/角川書店)や『ひみつの陰陽師』(藍川竜樹:著、みずのもと:イラスト/集英社) 、『闇の皇太子』(金沢有倖:著、伊藤明十:イラスト/エンターブレイン)や『絶対霊感』(七穂美也子:著、ユカ:イラスト/集英社)、『鬼舞』(瀬川 貴次:著、星野 和夏子:イラスト/集英社)といった陰陽師を主人公にした作品が、少女向けラノベでは多数出版されている。少年向けではメインとして扱われることの少ない陰陽師だが、少女にこれほどまでに支持されるのは一体なぜだろうか?

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 まず、陰陽師と聞いて誰もが真っ先に思い浮かべるのは安倍晴明だろう。『少年陰陽師』の主人公・安倍昌浩はその晴明の孫という設定なのだが、そもそも晴明の母親は白い狐であるといった言い伝えも残されるなど、謎に包まれたミステリアスな男だ。やはり女性はミステリアスな男性に惹かれる。本性を暴きたい、自分だけに見せる姿が見たい。そんな欲望をかきたててくれるからだ。

 また、“狐の子”と呼ばれていたという安倍晴明のイメージからか、キツネ顔の印象も強い陰陽師。クールだけど飄々としてつかみどころのない彼らは、人を化かすという狐にそっくり。そんな風にとらえどころがなく、おかまいなしにこちらを振り回してくるところも女子を引きつけてやまない理由だろう。

 さらに、中性的な魅力を持っているというのも大きい。とくに少女向けラノベで登場する陰陽師は、いずれも少年。『ひみつの陰陽師』にいたっては、家の存続のために男の子として陰陽師を目指す女の子が主人公なのである。そんな中性的な印象を持つ陰陽師像が出来上がったのは、夢枕獏の『陰陽師』やそれをもとに描かれた岡野玲子の『陰陽師』の影響が強い。妖を操る陰陽師は、どこか浮き世離れした妖艶さを持っているが、男や女だけではなく人ではないものですら受け入れる懐の深さもある。そんな慈悲深さを持ちながら、妖や悪を容赦なく切り捨てる強さや冷酷さも垣間見せる彼らは、ゾッとするような色気を纏っている。そうやって女性の心を鷲掴みにした色っぽい陰陽師のイメージが、中性的なキャラクターへとつながっていったのだろう。

 そして、占いやおまじないが大好きな女の子たちは陰陽道にも興味津々。ファンタジーやロマンティックなことに憧れる女子にとって、スピリチュアルなものが持つ目には見えない、言葉にできない不思議な力はとっても魅力的なのだ。男性よりも圧倒的にスピリチュアルなものを信じる女子にとっては、陰陽師はもちろん陰陽道がどういったものなのかにも興味がある。だからこそ、陰陽師を目指して成長する主人公らと共に陰陽師についての知識を得られる“陰陽師モノ”はまさにピッタリ。こんなふうに、陰陽師は女の子たちのいろんな願望を叶えてくれる最高のキャラクターなのだ。

 野村萬斎や篠井英介、稲垣吾郎や窪塚洋介……実際これまで実写化で陰陽師を演じた俳優たちを見てみると、確かに「キツネ顔」「スピリチュアル」「中性的」で、「ミステリアスな雰囲気」をまとった人物が多い。この秋も『鬼舞 見習い陰陽師と悪鬼の暗躍』(瀬川貴次:著、星野和夏子:イラスト/集英社)や『少年陰陽師 こぼれる滴とうずくまれ』(結城 光流:著、あさぎ 桜:イラスト/角川書店)といった陰陽師ラノベがたくさん刊行されているが、もしも実写化されるとしたら、ぜひ綾野剛山田涼介といった中性的でキツネ顔の人に演じていただきたい。