“やりたい仕事につけなかった”人におすすめのコミック『西洋骨董洋菓子店』

マンガ

更新日:2012/11/15

 就職難が叫ばれて久しい昨今。『ダ・ヴィンチ』11月号に“仕事”にまつわる興味深いアンケート結果が掲載されている。読者を対象に行われた「なりたかった仕事につけましたか?」という質問に対し、「はい」と答えた人はわずか8%。対して「いいえ」、つまり「第一志望の仕事に就くことはできなかった」人は68%。しかし読者コメントを覗いてみると、「いいえ」と答えた人の大半も、今の仕事を「やりがいがある」と感じているのだ。

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 このアンケートは、マンガ家・よしながふみの特集に際して行われたものだ。2001年に滝沢秀明主演でドラマ化されたコミック『西洋骨董洋菓子店』は、洋菓子店に働く男たちの日常をユーモアたっぷりにミステリーの仕掛けを施しながら描かれた作品。実は同作には、“第一志望”の仕事を選べなかった男たちの“お仕事マンガ”という側面も存在する。

 ――本作の冒頭には2つの“選択”の場面が登場する。1つは網膜剥離と診断され、ボクサーを辞めざるを得なくなった神田エイジ。もう1つは若き日の芥川忠宏が、優秀な成績でキャリア官僚試験に合格しながら、あえて警察庁を選んだことが明らかにされる回想シーン。ともに“職業の選択”に関するエピソードであり、本作においてはそれが重要なテーマとなっていることを暗示する。そして主人公3人に限っていえば、誰もが“第一志望”の仕事に就けた人間ではないのだ。

「俺はビジネスとしてこの店やってるだけだ でなかったら本当はケーキやケーキを好きな奴となんて関わり合いたくもねえって言うのに!!」と言う橘に、「僕も特別ケーキが好きで菓子職人(パティシエ)をやってる訳じゃないし君がケーキを嫌いでも別に構わないけど」「でもビジネスならビジネスとしてきちんと僕のケーキを売ってもらわなきゃ困る!」と小野が説くシーンは象徴的である。
 第一志望の仕事だったら、“頑張る”のは当たり前。しかし大半の人はそうではない。ならばどうするべきか?

 ある失敗ゆえに閑職へと追い込まれた芥川はケーキの食べ歩きという趣味に生きる。神田エイジは製菓の勉強のためにいやいやフランス語教室へと通う。そしてラストシーンの橘のセリフ。“第二志望”の人生を生きるヒントが、本作にはそこかしこに込められている。――(取材・文=小田真琴)

 特集ではその他にも、おすすめのお仕事マンガを紹介しているので興味のある人はチェックしてみては。

ダ・ヴィンチ11月号特集「よしながふみ 愛がなければ…」より)