『テルマエ・ロマエ』の装丁家に訊く、“マンガのデザイン”

マンガ

更新日:2012/10/23

 マンガのデザイン――個性豊かな作家のイラストを用い、その作品世界を“翻訳”する職人の仕事だ。優れた装丁は我々の心臓を貫き、占有欲を掻き立てる(本が放つ“匂い”に惹き寄せられ、ジャケ買いした経験は誰にでもあるだろう)。

 マンガは基本的に、マンガ家や原作者によってのみ作られるが、唯一他者が介在する工程がある。それが装丁だ。装丁の重要な役割は、マンガをパッケージングすること。コミックスの顔ともいえる存在だ。書店で読者の目に留まるインパクトは当然必要なのだが、それ以上にマンガの世界観を独自の方法で極めて巧みに表現している。

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 『ダ・ヴィンチ』11月号では、そんな“マンガのデザイン”を特集。数々の作品の装丁を解説するほか、『さよならもいわずに』や『テルマエ・ロマエ』など数多のマンガ装丁を手がける装丁家・セキネシンイチにインタビューを行っている。
「“売れる装丁”っていうのは僕にはわからない。作品、作家のイメージをどんな風にパッケージすれば読者に興味を持ってもらえるか、作家さんがどういう人で何を考えながらマンガを描いているのか、それが読者にしっかり届く装丁がいいと思っています。

 仕事に取りかかる前には、できるかぎり作家さんご本人に会います。どんなコミックスが作りたいのか、直接話を聞く。人となりや作品に対する思いみたいなのがわかって、それがデザインに生かせたらいいかなって思っています。

 『テルマエ・ロマエ』は、僕が装丁させていただいた中で最もヒットしている作品なんだけど、じつは最初、ヤマザキマリさんを“初めて単行本を出す新人”だと誤解していて(笑)。『テルマエ~』だけしか読まずにローマ→彫刻→はだか→お風呂って考えちゃって。そんななかでⅠ巻のイラストのアイデアが浮かびました。他の作品も読んでたらあんなに、割りきって作れなかったかもしれません」

 作品世界を巧みに表現し、かつエッジの効いたデザインを実現するセキネシンイチ。装丁に懸ける妥協のない姿があるからこそ、そのデザインは愛され、人の目を集めるのだろう。
「いまは、デジタルなどマンガの出版形式も増えていて、マンガのデザインのアプローチも広がってきている。そのうえで作家や作品を愛する読者一人一人にきちんと届く本を創っていけたらいいと思っています」

 特集ではこの他、『マンガ・エロティクス・エフ』編集長やマンガと装丁の紹介ブログ「良いコミック」管理人などにもインタビューしており、様々な視点から注目すべき装丁作品について語っている。

取材・文=松井美緒
ダ・ヴィンチ11月号「コミック ダ・ヴィンチ」より)