流行の書店フェア、その魅力と人気の秘密

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/26

 本にまつわるさまざまな話題や謎を調査研究し、実践的に学ぶという趣旨で雑誌『ダ・ヴィンチ』で連載されている北尾トロの「走れ! トロイカ学習帳」。11月号でルポ取材の対象となったのは、紀伊國屋書店新宿本店。本の書き出し部分だけを印刷して表紙にし、書名も著者名も秘密にして売る企画「ほんのまくらフェア」をきっかけに、書店フェアの魅力に迫っている。

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 ――タイトルも著者も明かさず本を売る大胆不敵な企画を考えたのは、紀伊國屋書店新宿本店仕入課の伊藤稔さんだ。数年前から暖めていた企画で、目的は大きく分けてふたつある。ひとつは、ベストセラーという保証付きの本の中から選ぶのではなく、自分の感覚で本を選ぶきっかけになるようなフェアをしたかったこと。もうひとつは、優れているのになかなか売れていかない既刊の文庫を動かすこと。

 すんなり通る自信はなかったという。セレクトショップなら似合うけれど、老若男女が訪れる書店向きとは言いづらい。書名のわからない覆面本が売れるとは限らず、企画倒れの危険がある。

 それが通った。やらねばならぬ。さて、具体的にどうするか。伊藤さんは、名著の一文目が持つ緊張感、読者を引き込む力を借りようと考えた。問題は見せ方だ。できれば、出だしの一文のインパクトを紀伊國屋流に伝えたい。
「そのために、カバーはデザイナーに頼んで、1冊ずつ違うものにしようと考えました。印刷するかコピーで作るかコスト計算して、カラーコピーでいこうと。中を見られるわけにはいかないのでシュリンクもかける。作業がどんどん増えましたが、まさかこんなに売れるとは思っていなかったんです(笑)」

 4名でチームを組んで本の選定を開始したのは3月。始業前後の時間を使って作業を進め、100冊の文庫本でフェアを構成した。で、各15冊仕入れて並べてみたら……人気爆発した。噂が噂を呼び、人がつめかける。一時は100冊中98冊が在庫切れになってしまったというからスゴい。チームの一員である梅﨑実奈さんは、客が棚の前から動かないのに驚いた。

 企画のヒットは思わぬ副産物ももたらした。正体不明本を買うのは一種の賭けなので、複数冊買う人がとても多い。待っている間に他のコーナーも見て歩き、客単価が跳ね上がる。フェア本だけではなく波及効果まであるとなれば、現場はしてやったりだろう。私も買ってみよう。

 話題沸騰の「ほんのまくらフェア」は好評につき期間を延長、総売り上げは1万8000冊以上。平均180冊超。いわゆるベストセラー抜きでとなれば、これは快挙だ。――(取材・文=北尾トロ

 同誌では、他にも全国各地で開催された書店フェアと流行の理由を分析している。また北尾は、この取材をきっかけに三省堂書店神保町本店と組んで、自身が発行人を務める雑誌『季刊レポ』とのコラボレーションフェア開催を決定! その名も「笑う本棚」。
「泣けたり、理解を深めたり、役立つだけが本の役割ではなく、笑いもまた、本のもつ重要な滋養なのだ。擬音別の選書も正解。落語本から文学、ノンフィクション、料理本、コミックまで、ジャンルを問わない本が集まってきて、寄ってきた人たちがじっくりラインナップを確かめたくなる構成ができそうだ」と本人の意気込みも十分。

 フェアができるまでの担当者とのやりとりも、同誌にルポ形式で掲載されている。本フェアは10月5日にスタートし、11月上旬まで開催予定だ。

「笑う本棚」
『季刊レポ』×三省堂書店×ダ・ヴィンチ
■選書参加者 
えのきどいちろう/乙幡啓子/霞 流一/北尾トロ/下関マグロ/新保信長/杉江松恋/豊﨑由美/日高トモキチ/平野勝敏/平松洋子/宮田珠己/やまだないと(以上13名)
■開催日程 
10月5日(金)~11月上旬 10:00~20:00
■開催場所 
三省堂書店神保町本店4階
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-1
03-3233-3312

ダ・ヴィンチ11月号「走れ! トロイカ学習帳」より)