青春マンガの新定番? 「合唱マンガ」の魅力

マンガ

更新日:2012/10/26

 10月6~8日には「NHK全国学校音楽コンクール」が、そして27日からは「全日本合唱コンクール全国大会」も開催され、音楽会や文化祭でも合唱する機会が増えるこの季節。大ヒットした海外ドラマ『glee』の影響もあるのか、近年、本の世界でも合唱を題材にした小説やマンガも増えている。しかし、中高生ならカラオケは大好きでも、校歌や合唱なんて歌わないという子も多いのがゲンジツ。にもかかわらず、『少年ノート』(鎌谷悠希/講談社)や『オトノハコ』(岩岡ヒサエ/講談社)、『TARI TARI』(EVERGREEN:原作、鍵空とみやき:作画、tanu:キャラクター原案、尚村 透:構成/スクウェア・エニックス)などの合唱マンガが人気を集めているのは、なぜなのだろうか? 合唱マンガの魅力とは?

 まずまっさきに思い浮かぶのは、みんなで協力してひとつのものを作り上げるという喜びを味わえることだろう。文化系の部活動は個人でやるものが多く、部員全員で何かを成し遂げるというものが少ない。しかし、全員が一丸となって楽しげに歌う様子を見れば、「あの場所にいたい」「ここにいるとさびしくない」などと感じるのもうなずける。歌が好きな人にとっては、ひとりで歌うよりも大勢で歌うほうがきっともっと楽しいはず。青春できるのは何もスポーツや恋愛ばかりではないのだ。

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 しかし、「合唱大好き!」なんていう思春期の少年少女はいったいどれだけいるだろう? 全米で高校のグリークラブ(合唱部)を舞台にした海外ドラマ『glee』が大ヒットしたとはいえ、その感覚が日本でも通じるとも思えないが……。

 実は現実の中高生たちと同じく、合唱マンガの主人公たちもまた歌うことにためらいを感じている。

 『オトノハコ』の主人公である田辺きみは、変な声だと言われたことで自分の声にコンプレックスを持っていた。合唱部に入っても初めは自分の歌声に自信が持てず、小さな声で歌ったり、「わたしは必要ないんじゃないのかな」なんて思っていたのだ。しかし、スパルタ部長に「自信ないならなおさら大きな声出して 今のウチに間違いを直すんだ」と励まされたり、実は上手いと思っていた他の子達も音が取れているか不安だったと知ってホッとする。

 そして、アニメ放送されていた『TARI TARI』の主人公・宮本来夏も、発表会で緊張しすぎてまったく歌えず、最後の最後で「やぁ!」と叫んでしまったというトラウマを抱えている。そのせいで次の年の発表会では歌わせてもらえなくなるのだが、歌が大好きで歌いたいという気持ちを諦めきれず、新しく合唱部を作ってしまうのだ。本当なら舞台に立つことや人前で歌うことすら怖くなるはずなのに、来夏は毎日公園や自分の部屋で歌の練習を続け、初めての発表会で見事に歌いきる。

 また『少年ノート』は、変声期前の限られた期間、ソプラノの音域を歌うことができるボーイソプラノの少年・蒼井由多香が主人公。いつかこの声が失われてしまうかもしれないという不安を背負いながら、彼は合唱だけでなくオペラにも挑戦する。後悔しないために、今の自分にできるすべてをやるのだ。

 自意識が芽生える思春期の子どもたちにとって、人前で歌うのは恥ずかしいことかもしれない。しかし、あえてその中に飛び込むことで、内気でコミュニケーションが苦手な子や心に葛藤を抱えた子が、自分の悩みやコンプレックスを克服し内面的に大人へと成長していく――そんな姿が描かれるのは合唱部だからこそ。それに、どの作品も顧問の先生がほとんど登場しないので、大人に頼らず自分たちだけで乗り越えていくというところも、彼らの成長の過程がよく見えるのだ。

 思春期の揺れ動く気持ちや心の成長は、あの頃にしか味わうことができない。みなさんだって今でも合唱曲を聞くと、学生時代を思い出して懐かしく感じるのではないだろうか。大人になるとなかなか人前に立って大勢で歌うこともなくなるが、合唱マンガを読めば「あぁ、自分も成長したなぁ」なんて思い出に浸れるかもしれない。