作家から漫画家へ。異色の転身をはたした豊島ミホの挑戦とは

更新日:2013/8/6

 ネットカルチャーの旗手に突撃インタビューする本連載。今回登場するのは、作家として活躍した後に漫画家へと異色の転身をはたし、現在、ブクログのパブーにて『読書感想文攻略法』を連載中の豊島ミホさん。漫画家に転身した経緯や新作のテーマについてなど、いろいろお話をうかがいました。また、豊島さんが選んだ「大人でも感想文を書きたくなる一冊」も併せて紹介します!

次の仕事の選択肢のひとつとして漫画があった

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豊島ミホ
(としまみほ)1982年、秋田県生まれ。大学在学中の2002年、『青空チェリー』で「女による女のための『R-18』文学賞(読者賞)」を受賞してデビュー。2009年まで作家として活動。著書に『檸檬のころ』『夜の朝顔』『夏が僕を抱く』など。「豊島ミホ売り切りプロジェクト」として絶版小説もブクログのパブーにて販売中。ブログ「雑記帖」

――なぜ漫画を描くことを決意したか、きっかけや経緯を含めて教えてください。

豊島  漫画は保育園の頃からずっと描いていて、高校を出てからは投稿もしていました。が、たまたま出してみた小説が先に新人賞を通ってしまい、同時に応募していた漫画のほうは落選。こんなに長く、たくさんやってきたことが認められないなんて……とショックで漫画はあきらめてしまいました。

でも小説の仕事をいただくのをやめたあと、色んな仕事を選択肢として考える中で、もう一度漫画にチャレンジしたいという気持ちが湧いてきました。秋田に帰って少ししてから、描き始めました。

最初は結婚して漫画もパート代わりに細く長く続ける……的なビジョンを持っていたのですが、田舎で結婚できなかったしデビューもできなかったので、東京に出て、バイトなどしながら持ち込みする生活をすることにしました。

上京した直後、「文芸あねもね」でお世話になったパブーさんから、連載機能をリリースするにあたりデモンストレーション的に何か小説以外のことをしてみないかとお声がけいただき、これ幸いと漫画を描かせていただくことにしましたが、仕事が途切れたら、普通にバイトしながら持ち込みすると思います。

――豊島さん自身は、漫画と小説にはどのような違いがあるとお考えですか?

豊島  どっちがどういう話に向いているとか、違いはあると思いますが、それを答えると「だから漫画に変えたのか」と誤解されそうな気がします。比較検討して漫画を選んだのではなく、小説の仕事をやめてから、次の仕事の選択肢のひとつとして漫画があったということです。

仕事内容の違いというのは感じますが(小説家は人前に出る仕事が多いなど)、心がけというか、精神面で求められるものは似ていると思います。どちらも、無理だと思うことを乗り越えていく覚悟がないとできない仕事だと感じます(世の中の仕事全部そうかもしれませんが……)。自分は小説を書いていく上で覚悟が足りなかったなと今になって反省することが多いです。漫画では小説の時よりたくさんのハードルを越えていきたいです。

――今回「読書感想文」をテーマにした理由は?

豊島  私は小学校から高校まで、読書感想文がろくに書けず苦労してきました。が、大学時代にやっと「あ、そうか、こういう考え方で書けばよかったんだ!」ということをひらめいて、それを、自分のように感想文が書けない子たちに伝えたいと思うようになりました。「読書感想文攻略法」というタイトルや内容は、長年考えてきたものです。

今回、漫画を初めて連続掲載していただくにあたり、新たに連載用のストーリーを考えるよりは、はっきりと道筋の決まったもののほうが安心かなと思い、「読書感想文攻略法」の企画を引っぱり出させていただきました。「ブクログのパブー」さんだけに、読書がらみのネタがいいかなというのもちょっと考えていました。

  • 「読書感想文攻略法」は、高校生の春樹と柚子の前に突如現れた妖精が
    手取り足取り読書感想文の書き方を伝授するというコミカルな内容

 
――今後の展開(豊島さんが挑戦したいことや、これからの企画など)を教えて下さい。

豊島  「別冊マーガレット」の11月号から、読者ページでイラストコラムと恋愛相談(※編集さんとのチャット形式、文章)を担当させていただいております。まずは目の前の仕事を頑張りたいです。また、別マは大好きな雑誌で、描かせていただけることがすごく嬉しいので、こういうふうに、自分が大好きな場所で、役に立つことを目指して仕事していけたら幸せだなと思います。

――ありがとうございました。今後の連載を楽しみにしています。

『聖の青春』 (講談社文庫)

大崎善生/講談社

重い腎臓病を抱え、命懸けで将棋を指す弟子のために、師匠は彼のパンツをも洗った。弟子の名前は村山聖。享年29。将棋界の最高峰A級に在籍したままの逝去だった。名人への夢半ばで倒れた“怪童”の一生を、師弟愛、家族愛、ライバルたちとの友情を通して描く感動ノンフィクション。第13回新潮学芸賞受賞作。

「闘病もの」ではなく「勝負もの」の作品だと私は思っています。必ず勝ち負けがつきまとう将棋の世界で、相手を負かす残酷さに心傷めながらも、勝利に執心する聖。将棋以外(麻雀、推理小説や少女漫画を読むのも趣味だったとか)も、やりたいことは全部やる、その命の炎のすさまじさに圧倒されました。小説を書いていた時の自分は、結果が出ないことに不満を抱いていたけれど、聖のように常に正面から自分の限界と闘っていたら、そんな不満を抱く暇はなかったのではないかと、この本を読んで思いました。