数奇者の「欲」が乱世を動かす? 戦国オタク魂ここに見参!

更新日:2012/11/27

へうげもの (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:山田芳裕 価格:540円

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積まれた金や国ひとつ貰うより名品茶碗が重要で、死んでも茶釜は渡さないと爆死さえする人がいる。茶道や骨董品に興味がない人であればどうしてそうなると思いたくなるような考えですが、「数奇者(すきもの)とは芸の求道者=分かりやすくいえば熱烈な茶道オタク」だと考えるとなんとなく納得できてしまうから恐ろしい。工場・電車・アニメ・etc…分かる人には分かり、分からない人には多分一生分からない世界の住人。現代でも脈々と受け継がれる日本の業が、安土桃山時代の姿で生き生きと描かれているところが本作の見所です。本作は第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第14回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作、NHKでアニメ化もされた作品です。

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戦国時代のマンガといえば武将の武勇伝・軍師の知略謀略といったものに主眼が置かれることが多いですが、本作では当時の芸術、特に茶道における美意識を通して見える世界を描いています。この点が大河ドラマ系とは違う持ち味を出しています。

例えば、主人公の古田左介。
このキャラは見ていて楽しい人です。出世欲も物欲も大きく、武と数奇の双方にたしなみを持っている。武人としての彼は主君である織田信長が目指す天下布武、「華」の美意識に痺れ憧れを抱き、数奇者としての彼は後の茶道の大家、千利休が考案した茶室の「詫び」に小宇宙を感じて驚愕する。数奇を捨て武人として功を成すと決意し敵将を追いつめるも、敵総大将が落とした大名物の茶碗に魂を奪われ千載一遇の武勲を捨て茶碗をとってしまう。あっちの欲を立てるとこちらの欲がたたず、片一方を切り捨てることも出来ない。欲深は得てして悪徳として描かれることが多いですが、双方の欲に対する全力が一周まわって魅力になっているという点が彼のおもしろさとなっています。

そして安土桃山時代の茶人、数奇者として外せない千利休。
私の詫び茶へのイメージといったらワビサビストイック、さてでは産みの親たる彼はどんなキャラクターかと思ったら、なんと左介より一等強い強欲者でした。なにせ信長の支配下では自分の茶道は広げられない、大陸渡りの「華」ではない「詫び」の茶心を広めたい、だから秀吉に天下人になって貰いたいと言うのですから! 初めは動揺する秀吉も天下人になる決意をかため…という、数奇者の欲が歴史を動かした瞬間でした。

この、戦国時代を動かしたのは芸術美意識への欲であるという驚きの展開が、生き生きとしたキャラクターを通じて語られ、斬新な読み味を出しています。1巻はまだまだ序の口、これからの物語への壮大なるプロローグといったところ。続きが凄く楽しみな作品です。


数奇者たるもの見えない場所にも風情をこらせ。柄つきふんどしがまさしく左介らしい

敵総大将を追いつめておきながら、敵が落とした茶碗に魂を奪われる左介。悲しきかなオタク魂の業の深さよ

茶室の中に広がる小宇宙には左介も度肝を抜かれました

利休の決定的なひとこと。歴史が動いた瞬間!
(C)山田芳裕/講談社