マエケン、おかわりから球界最年長投手まで、天才プロ野球選手の秘密に迫る

公開日:2012/12/2

天才たちのプロ野球

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 講談社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:二宮清純 価格:810円

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本書は著者がセレクトした18人──田中将大(楽)、前田健太(広)、石川雅規(ヤ)、唐川侑己(ロ)、岸孝之(西)、中村剛也(西)、T-岡田(オ)、中田翔(日)、畠山和洋(ヤ)、村田修一(横・当時)、内川聖一(ソ)、荒木雅博(中)、田中浩康(ヤ)、森福允彦(ソ)、松中信彦(ソ)、谷繁元信(中)、山本昌(中)、宮本慎也(ヤ)──の“天才”プロ野球選手がいかにして“天才”になり得たかを追ったものである。

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“天才”と言っても、そもそも抜きん出た才能がなければプロにはなれないわけで、真の勝負はプロに入ってからだ。この18人はさまざまな出会いや経験の結果、天賦の才能を開花させ得た選手として紹介されている。その経緯を通して、彼らが「凡人」と何が違うのかが明らかになっていく。

たとえば中村剛也は。統一球で球界全体のホームラン数が激減する中ただひとり打ち続けるバッターになった。11年にはなんとひとりで千葉ロッテのチーム本塁打数に匹敵する数のホームランを記録したのである。中村は言う。「ホームランの打ち損ないがヒット」だと。普通は「ヒットの延長がホームラン」というものなのに、この考え自体に度肝を抜かれる。そんな彼を造ったバックボーンは何だったのか。

そんなふうに各選手のエピソードが紹介されるのだが、とにかくすごい。たとえば岸孝之は今やほとんど使い手のいなくなったカーブを投げる。なぜカーブの投げ手が減ったのか、なのになぜ岸のカーブは打てないのか、証言を交えながら説明される。田中将大の「被打率が悪い割に防御率がいい」とう傾向は、ランナーが出てからギアが一段上がるという彼の習性を表していると聞いて膝を打った。また、谷繁元信の「4打席目(試合の最終打席)から逆算してリードをする」話などは、試合の中に伏線を張る様子がまるで上質のミステリーを読んでいるかのようだ。

面白いのは中田翔と畠山和洋の章だ。ケガをして落ち込んだときのことを振り返り「僕ってナイーブなんですかね?」と著者に尋ねる中田。「たずねられても困る」と著者が困惑しているのが笑える。また畠山の章では、指導に当たったコーチが、デブには動けるデブと動けないデブがいる、前者は西武の中村で後者が畠山だと喝破しているところで大笑いしてしまった。しかしその畠山のスペシャリティには思わず背筋が伸びる。

ひとりひとりの読みどころを挙げていてはキリがないのだが、前田健太の章で著者が「プロ野球はルネッサンスの時代を迎えている」と述べているのが印象的だ。今の天才たちは、野心的ではあるが野暮ではなく、頑固ではないが安易な妥協を嫌う、しなやかでしたたかな若者たちの群れだと。本書を読むと、これからの野球界がどう変わるか、ますます楽しみになる。そしてその一方で、どっしりと君臨するベテランたちの輝きもまた、他者を圧倒する。プロ野球の天才たちの、凡人の想像を超えたレベルでの切磋琢磨が本書には詰まっているのである。


各章の扉にはその選手のプロフィールを掲載

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