コバルト文庫で30年以上続く人気作、吸血鬼シリーズがついに電子化!

小説・エッセイ

公開日:2012/12/4

吸血鬼はお年ごろ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 集英社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:赤川次郎 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

いやあ読んでましたよコバルト文庫。70年代はまだ文壇の大御所が「少女向け」に書いたりしてたが、80年代になると新井素子、氷室冴子、久美沙織といったスターがどどんと出てきて、一気にこのジャンルが華やいだ。ライトノベルという言葉は(少なくとも私の周囲には)まだなかったんじゃないかな? 少女小説とか、ジュニア小説とかって呼ばれていた時代。その中にいたわけですよ、赤川次郎が。この吸血鬼シリーズが。シリーズ第1作『吸血鬼はお年ごろ』のコバルト文庫出版は1981年。ああ懐かしい!

advertisement

主人公は女子高生の神代エリカ。学校ではノッポの千代子とデ…いや、えっと、食いしん坊のみどりと仲良しで、ごく普通の女子高生として暮らしている。が、実は吸血鬼の父親を持つ、吸血鬼と人間のハーフなのだ。ある日、エリカが通う高校の生徒が吸血鬼に噛まれたような傷を残して殺されるという事件が起きた。これは放っておけないと、エリカは父のフォン・クロロックと一緒に解明に乗り出すが……。

吸血鬼とのハーフだけあってエリカも普通の人間ではない。血こそ吸わないものの、手を触れずに物を動かしたり催眠術っぽいものを使ったりできる。しかしこのシリーズの魅力は、そういう常人離れした能力ではなく、何より登場人物の明るさと、その「定番力」にある。

明朗にして痛快。それがこのシリーズだ。コミカルな会話に役割がしっかりしているキャラクタ、テンポのいい明快な文章、そしてお決まりのジョーク。この「お決まりの」というのが大事で、ほどよいハラハラを混ぜながらも絶対ひどいことにはならない、最終的には明るく終わるという安心感があるのだ。いつものメンバーがいつものようにわいわいやって、笑って怒って慌てて、そして和む。これが定番の力だ。だから何の心配もなく読める。疲れているとき、滅入っているとき、難しいことを考えたくないとき、そんなときに心を休ませる読書に最適で、時をおくとまた「いつものメンバー」に会いたくなるというわけだ。

その安心感、安定感ゆえか、このシリーズはコバルト文庫で30年経った今も続いている。年1冊の刊行ペースで、最新刊『ドラキュラ吸血鬼フェスティバル』でシリーズは30冊になった。思い出したときにちょっとつまめるような、そのペースもまた心地いい。そのうち本書から現時点で7作目までが集英社文庫入り(8作目は来年1月に刊行予定)。装丁もがらりと雰囲気を変えて、ホラグチカヨさんのしゃれたイラストがあしらわれている(電子化のサムネイルもこの絵柄)。そして集英社文庫入りした順に電子化されているという次第。

新しい読者はもちろん、「わあ、中学生のときに読んでたわ!」というあなたも、この機会にぜひもう一度読んでみては? ケータイもネットもない昭和の終わりに書かれたこの第1作、意外なくらい違和感無く読める。それこそが、定番の力なのだよ。


本書にはこの短編3作を収録。(見やすいように字を拡大しています)